300本のバラ

美輪によれば、三島は「特に文壇には友だちはいない」と言っていたのに、亡くなったら、雨後の竹の子のように“心の友”が出てきた。有名になったら突然現れる親戚のようなものである。

美輪が日劇で公演中に、三島は300本のバラを抱えて現れた。最後の別れだったのだろう。それとは知らずに美輪は言った。

「なんなの。こんなにたくさん」

それに三島は返した。

「もう、きみの楽屋には来ないからね。いろいろとありがとう。感謝している」

美輪の演じた『黒蜥蜴』への感謝だと美輪は思ったのだった。

佐高信『昭和に挑んだ作家たち』(平凡社新書)
佐高信『昭和に挑んだ作家たち』(平凡社新書)

これから先の分もあった300本のバラに美輪はあわてて、付き人にバケツを借りに行かせ、2杯のバケツにそれを入れた。

「ご冗談ばっかりで、ほんとうにかわいらしい人でしたよ」

そう結論づける美輪は、ノーベル賞をもらいたがった三島に、こんなタンカも投げつけている。

「あんなノーベル賞なんて、何だとお思いになってるの。あれは爆弾つくった人の、罪ほろぼしの賞ですよ。そんな賞もらって何がうれしいんです? 私だったら突き返してやりますよ。人殺しの賞なんて要らねえよ! と」これには三島も「きみは強いねぇ」と苦笑いするばかりだったとか。

【関連記事】
11体のラブドールと暮らし"正しい性行為"を楽しむ…「人より人形を愛する男たち」が奇妙な生活を始めたワケ
地方衰退の一番の原因は「人口減少」ではない…山口の超富裕層が「住民税43億円」をまるっと抱えて移住した理由
「秀吉と一緒になるのがイヤ」ではない…お市の方が柴田勝家との自害を選んだ"現代人には理解できない"理由
石田三成と戦っていないのに関ヶ原合戦後に大出世…徳川家康が厚い信頼を置いた「戦国最大の悪人」
子供の命を奪った犯人とすぐに交尾する…ゴリラの母親が「死んだ子供」よりも「強いオス」を優先する残酷な理由