10年以上前から始まっていた「脱中国依存」
報復を受けるたび、日本は多角化を加速させた。レアアースの調達先の多角化など地道に手を打ち続けた。結果、日本はレアアース調達における中国への依存度を、2010年の約90%から2023年には約60%にまで引き下げたと、CSISは指摘する。ホタテで見られたのと同じ構造転換を、日本は実は10年以上前からすでに進めていたのだ。
中国が威圧を繰り返すたびに日本側は、「脱中国」の意志を強固にしている。CSISは、今回の緊張を受けて日本政府が多角化努力をさらに加速させ、長期的に日中は経済面で距離を広げていくとの見方を示す。中国としては、経済カードを使えば使うほど、将来使える自らの手札を失う格好だ。
この動向は、渡航自粛勧告以降、日本の観光業界が訪問元国の多角化を図り成功した動きにも重なる。
中国政府は2025年11月の高市首相発言に反発し、自国民に日本への渡航自粛を呼びかけた。効果は確かに表れており、2026年1月の中国からの訪日客は前年同月比61%減の38万5300人に急落。訪日客全体もコロナ禍の2022年以来4年ぶりに前年を割り込んだ。
だが、その穴を他国からの旅行者が埋め、結果として日本の観光業は好転した。NBCニュースによれば、同月の韓国からの訪日客は前年比22%増の118万人と単月として過去最多を更新し、台湾も17%増、アメリカも14%増と、主要市場が軒並み2桁%の伸びを見せた。
結果として2025年の訪日外国人数は過去最多の4270万人、旅行消費額も過去最高の9兆5000億円に達した。中国客が激減したまさにその年に、記録が塗り替えられたのである。
日本が獲得して、中国が失ったもの
こうして日本の観光業界は、中国に偏っていた依存体質からの脱却に成功したほか、滞在日数がより多く消費単価の高い遠方・欧米からの客層をより多く取り込む好影響を受けた。経済制裁を意図した渡航自粛勧告とは、まるで逆の結果である。
水産の世界でも、同じことが起ころうとしている。仮に将来的に禁輸が再び解除されようとも、日本の水産業者はもはや、中国市場への依存体質に逆戻りするつもりはない。
きゅういちの餌取社長は、ニューヨーク・タイムズの取材に、「『一度あることは二度ある』と言いますよね。実際、二度起きた。三度目もあり得ます」と述べた。
いつまた閉ざされるかわからない市場に、ふたたび経営の柱を据えるわけにはいかない。もう中国中心の事業体制には戻らない。それが、禁輸を二度くぐり抜けた日本のホタテ業界がたどり着いた答えだ。
こうした覚悟を持つのは餌取氏ひとりではない。Fisk Japanの片野CEOも同紙の取材で、「最も重要なのは、単一の市場に依存しないことです」と指摘している。
日本産ホタテを外交の切り札に使った中国は、皮肉にも、その切り札が二度と通用しない相手を自らの手で育て上げてしまった。
中国はいま、日本からのホタテ加工の発注を失い、アメリカへの再輸出だけで年間約162億円規模を稼いでいた巨大産業の火は消えた。経済制裁で威圧を試みた側が、結果として最も重い代償を払う結末となった。


