「中国外し」でホタテが美味しくなったワケ

シーフードソースの取材に応じた水産業者は、「幸い、最大手の取引先の一つがベトナムやタイで加工先を見つけてくれました。2023年からまた供給を再開しています」と述べ、東南アジアで代替の加工先を確保して禁輸を乗り切ったと語る。

加工拠点を移したことで、思わぬ恩恵も生まれた。中国では加工時にリン酸塩を添加してホタテのサイズを大きく見せる手法が常態化していた。ベトナムやタイではこの手法は中国ほど広まっておらず、効果に対して時間がかかることから避けられている。すなわち、図らずも加工製品の品質が向上した。

さらに、中国の中間業者を通さなくなった分、日本企業の利益率はむしろ上がった。

水産コンサルタント会社Fisk Japanの片野歩CEOは、2023年の「チャイナ・ショック」は必要な軌道修正だったと捉えている。ニューヨーク・タイムズの取材で、「中国ルートが消えたことで、市場が多様化した」と語り、中間業者を外した分だけ日本企業の利幅が厚くなったと指摘している。

国内回帰を決断したホタテ加工会社

冒頭で紹介したきゅういちは、この転換を象徴する存在だ。大阪に本社を置くクックビズがきゅういちを買収したのは2022年。同紙によると、中国向け製品は当時、売り上げ全体の4分の1を占めていた。ところが買収からわずか1年後、禁輸により出荷は一夜にして止まる。

きゅういちはその後、中国に外注していたホタテの加工工程の一部を国内に引き戻した。北海道の他の業者も、まったく同じ方向に舵を切った。政府補助金を活用して自動殻むき機を導入し、それまで中国の安い人件費に頼っていた手作業を機械に置き換えつつある。

中国の禁輸措置は結果として、日本のホタテの品質と利益率を向上させた。

マクロの数字を見ても、企業レベルの構造改革は如実に成果を上げているようだ。

農林水産省「令和7年(2025年)農林水産物・食品の輸出額」によると、2025年の日本の農林水産物・食品輸出額は前年比12.8%増の1兆7005億円。13年連続の増加で、過去最高を更新した。米外交専門誌のディプロマットによると、輸出先の首位はアメリカで、2762億円(前年比13.7%増)に上る。

対中国でも食品関連輸出は7.0%増の1799億円と、3年ぶりにプラスへ転じた。ただし、伸びたのは主に、禁輸の網にかからない観賞用の錦鯉やビール、丸太だ。肝心の水産物は、なかなか戻っていない。