「人件費削減」ではなく「人件費の入れ替え」

なぜ、賃上げの時代に会社員は安心できないのか。この違和感を起点に読み解くと、AI時代に向けた労働市場のシビアな深層が見えてくる。

いま企業の中で静かに、しかし劇的なスピードで起きている黒字リストラの正体。結論から言えば、それは「人件費削減」ではなく「人件費の再配分」である。

企業は、総人件費という財布のひもをむやみに緩めることはできない。しかし一方で、AI、デジタル技術、サイバーセキュリティ、データ活用といった、これからの事業変革の心臓部を担う人材には、グローバルな市場価格に合わせて高い報酬を払わざるを得なくなっている。

PwCの「2025 Global AI Jobs Barometer」では、AIスキルを持つ労働者は、同一職種内でも平均56%の賃金プレミアムを得ているとされる[4]

その原資をどこから捻出するか。人員の入れ替えによって、である。

人件費を投資対効果で考える時代に

年功的に高くなってしまった人件費を圧縮し、既存業務をこなすことを前提とした人員を絞る。そして浮いたコストを、AIやデジタルを活用して自社のビジネスを変革できる少数精鋭に厚く配分する。

若手であっても高度な専門性があれば高く処遇する一方で、管理職であっても自らの職務価値を明確に説明できなければ、容赦なく選別の対象にする。

これを「会社が人を大切にしなくなった」という感情論で片づけるのはたやすい。しかし現実は、会社が人件費の投資対効果をかつてないほど厳しく見定めるようになったという、不可逆な構造変化だ。