歯のない人ほど専門的な口腔ケアは必要ない

対照群は、これまで通りの本人または介護者による口腔清掃にとどめました。その結果、研究開始時における両群の有意な差はありませんでしたが、介入群の2年後の発熱発生者数、肺炎発症者数、肺炎による死亡者数は有意に小さかったのです(図表2)。

この研究結果は1999年に有名な総合医学誌のLancetに掲載され(※2)、世界中で、病院や老人介護施設での口腔ケアの重要性が認識され、実施されるようになりました。この考え方は、重度の要介護高齢者だけでなく、急性期の脳血管障害患者や、これから大きな手術を受ける患者に適用され、脳卒中や手術後の予後の改善や入院期間の短縮、および患者のQOLの向上にも貢献したのです。

※2:Yoneyama, T., Yoshida, M., Matsui, T., Sasaki, H. Oral care and pneumonia. Oral Care Working Group. Lancet. 354, 515, doi:10.1016/s0140-6736(05)75550-1 (1999).

さらに、米山先生らの研究では、歯が残っている要介護高齢者と無歯顎の要介護高齢者の比較も報告しています。その結果、有歯顎者(歯がある人)では、口腔ケア群のほうが発熱発生者数、肺炎発症者数、肺炎による死亡者数が有意に少ないことがわかりました。

歯科補綴モデル
写真=iStock.com/Bauda Laboratorio Creativo
※写真はイメージです

ところが、無歯顎者では有歯顎者ほどの著しい差はみられませんでした。その理由として、無歯顎者は装着している総義歯を外すと口の中はつるんとした歯のない土手状の歯肉があるだけなので、口腔ケアが実に簡単に行えるのです。

歯みがきが脳の衰えをゆるやかにする

つまり、専門的な口腔ケアでなくても、ある程度、口の中をきれいにすることができたために、誤嚥性肺炎の発症を抑制できた、と考えられるのです。これに対して、歯のある口腔のケアは難しく、専門職の介入が望ましいということになります。

加えて、この研究では、口腔ケア群と対照群のADL(Activities of Daily Living、日常生活動作)とMMSE(Mini-Mental State Examination、認知機能検査)の変化も追跡していました。ADLに関しては、18カ月後に有意な差が出ましたが、24カ月後には元に戻っていました。

しかし、認知機能に関しては、有意に口腔ケア群で低下が抑制されたことが判明したのです(図表3)。実際、米山先生は介護の現場で、口腔ケアで介入すると患者の意識がはっきりしてくるということをよく経験されていたそうです。

この因果関係は明確ではありませんが、口腔領域への刺激が脳への良好な刺激となり、また、それはほかの体の部位より強い可能性があるということは、ホムンクルスの絵(図表4)からも想像できます。そして余談ですが、このようなことがあったそうです。