肝心な中身は「あとで決める」

当然ながら本法案も、関連業者が患者さんの個人情報を同意なく、無制限に取得したり利活用したりできるようにするものではありません。まったく「歯止め」がないというわけでもありません。

たとえば、提供元・提供先の公表、事業者間の書面合意、目的外利用や再提供の禁止、課徴金制度の導入など、一定の保護措置はとられています。

しかし、それらの多くは、患者さん本人の権利保障というより、事業者側の手続統制にとどまっています。患者さん本人への個別通知や、実効的な拒否権、不同意者を確実に除外する具体的な運用までは、法文上、十分に書き込まれていないのです。

しかも、何をどこまで公表するのか、「統計作成等」とはどこまでを含むのかといった肝心な点の少なからぬ部分が、委員会規則やガイドラインに委ねられていることも問題です。

これでは、安心の中身が法律本文ではなく、後から定まる運用に依存してしまうからです。この法案の立てつけに不安を感じない人のほうが少ないのではないでしょうか。

【図表】個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案(概要)
出典=個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案について」(令和8年4月)

「外国企業に渡る」よりも怖いこと

国会でも、議論はヒートアップしています。

6月4日の衆議院予算委員会で長妻昭議員は、松本尚デジタル大臣らに、実名・住所付きの病歴データが外国企業に渡るリスクを質し、法案では、第三者の企業へ実名・住所付きのデータが渡るのを事前に拒否する権利(提供停止の請求権)が本人にないことも指摘しました。

衆院予算委で質問する中道改革連合・無所属の長妻昭氏(2026年6月4日)
写真提供=共同通信社
衆院予算委で質問する中道改革連合・無所属の長妻昭氏(2026年6月4日)

「自分の医療情報が実名とともに外国企業に渡るかもしれない」と聞くと、ギョッとしてしまいますが、この質疑で浮かび上がったのは、外国企業という刺激的な言葉そのものより、患者さん本人が自らの医療情報の提供を実効的に止められるのかという法案の中核部分の曖昧さ、そして医療機関がその曖昧な仕組みを患者さんに説明できるのかという運用時に現場を襲うであろう混乱です。

本人同意を不要とする特例を広げる一方で、法律本文が前面に置いているのは患者さんへの個別通知ではなく「公表」であって、歯止めも主として事業者間(提供元医療機関と提供先企業等)の合意や運用に委ねられていること、これが大きな問題なのです。

ここにこそ、医療者の説明責任と法制度のズレがあると言えるでしょう。