キャリア観を広げる「理想を追わない考え方」

近年では学校でもキャリア教育が行われるようになり、目標設定や夢を持つことの重要性が語られています。それ自体を否定するつもりはありません。

ですが、現実問題として、多くの人は小さい頃になりたかった職業についているわけではありません。そのため、目標と計画をたてれば目標が実現するとは思っていません。

何より、やりたいことを明確化するのは簡単ではないし、むしろ、やりたいことを明確化できる人の方が少ないと私は考えています。

ここにキャリアを考えることの難しさがあります。

やりたいことを明確化して、そこから理想を描き、理想実現のための行動に落とし込むという方法には限界があります。

むしろ、やりたいことが明確化できない人たちにとっては、最初の段階で躓いてしまう可能性がある、危険なやり方です。

ただ、キャリアに関する理論の中には、理想を描く方法だけではなく理想を追わなくても良いという考え方もあります。

実は、その考え方を知ることこそが、あなたのキャリア観を大きく広げることにつながっていくのです。

街の屋外でスマートフォンとテイクアウトのコーヒーを手に持つ若い女性
写真=iStock.com/Ugur Karakoc
※写真はイメージです

“敢えてキャリアをデザインしない”が効果的

キャリアにおいて明確な目標を定めることを必須としない考え方の一つがキャリアドリフトです。

ドリフト(drift)は日本語で「漂流する」や「流される」などを意味する英語です。ゲームをする方なら、カーレースのゲームでカーブを曲がるテクニックとして「ドリフト走行」という言葉を聞いたことがある方は少なくないと思います。

ドリフト走行はタイヤを横滑りさせるわけですが、キャリアドリフトの場合は周囲の状況に合わせてうまく流されることを意味します。

実は、キャリアドリフトを提唱しているのは日本人です。

組織論の世界で著名な神戸大学名誉教授の金井壽宏氏が提唱しているのですが、金井教授はこのような主張をされています。

「キャリアデザインとキャリアドリフトは表裏一体。

“敢えてデザインしないこと”が結果的にキャリアの幅を広げる」

キャリアドリフトを唱えたのは日本人ですが、この考え方のもとになる理論はスタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱した「計画的偶発性理論」です。

英語の「Planned Happenstance」をそのままカタカナ読みした「プランド・ハプンスタンス理論」とも呼ばれます。

なかなか興味深い理論なので、ご紹介します。