「14億人の完全管理」は実現可能か
中国のこれまでの高度経済成長は、このルールの緩さ、つまり「グレーゾーン」が潤滑油となって作り出されてきた。農民戸籍のまま都市で働く労働者がいたからこそ安い人件費で「世界の工場」が維持でき、土地の不正利用を地方政府が黙認したからこそ地方経済が回っていた。
ところが、その「知恵」をいま習主席は犯罪化しようとしている。経済が縮むときに必要なのは、自由化と金融緩和である。だが、習近平体制下では、経済的な行きづまりは体制の脆弱性を招くので、統制を強化する方向に向かわざるを得ない。
かつて毛沢東が「大躍進」で数字だけを追い求めて大惨事を引き起こしたように、「14億人の完全管理」という机上の数字を追い求めるあまり、現場の生身の人間を次々と圧殺していく構造が今まさに進行している。
中国経済の「慢性的壊死」への道
外からは日米の軍事・金融包囲網、内からは人民完全管理という二重の圧力が中国を締め付けている。カリフォルニアの中国スパイ市長の摘発が象徴するように、情報工作も着実に封じられつつある。
ただし、これらは中国経済が即座に崩壊に向かうことを意味するわけではない。私の定義では、中国経済の「慢性的壊死(chronic necrosis)」である。体制は維持されながら、内側からじわじわと活力が失われていく状態がだらだらと続く。
それらは、習主席が自ら招いた結果であるが、「台湾併合」というあまりに高いハードルを設定したがために招いた一強体制の限界だろう。
中国がそのような状態にあるとき、日本が備えるべきことが大きく3つある。
第一に、エネルギー安全保障の構造的な脆弱性を直視し、核燃料サイクルの再構築とエネルギーミックスの強化、調達先の多角化などを急ぐことだ。
第二に、米比合同演習への参加を定例化し、第一列島線の防衛ネットワークを制度として定着させることである。
第三に、在日中国人コミュニティへの地下銀行・不正資金流入の監視を、日米の金融情報共有の枠組みでさらに強化することだ。
中国包囲網は着実に完成しつつある。だが、包囲だけすればいいわけでない。むしろ、相手の動きを封じたあとこそ難しい。というのは、追いこんだあとに暴発が起これば、中国だけでなく、日本も無事ではすまないだろうからだ。
今は習主席が勝手に失策を重ねている状態だが、それをいかに利用して国益に結びつけ、かつ中国との安定的な関係を保ち、暴発を避けるかが重要である。

