自分にしかできないことに挑戦してみたい
予想外に血液がんと関わるようになったのは、HCTC(移植コーディネーター)の織田佳奈も同じだ。織田は大学卒業後、渡英して動物の応用行動分析学を学んだ。
帰国後、専門学校で講師を務めていたが、結婚と出産を経て、時短勤務ができるとりだい医学部の教室秘書に転職。教室の編成が変わったことを機に血液内科の医局秘書になった。
「異動したタイミングで河村先生が戻られて移植が活発になりました。移植を行うにはさまざまな調整業務が必要です。最初は秘書としてそれを手伝っていましたが、先生からHCTCの認定を取ってみないかと声をかけていただきました」
多少の迷いはあったが決断した。子どもが成長して手がかからなくなり、自分にしかできないことに挑戦してみたいという気持ちになっていたからだ。
ただ、織田は事務方であり、医療現場は未経験。認定講習を受けたら、まわりは看護師や社会福祉士などの経験者ばかりで、「場違いなところに来た」と後悔した。
「血液内科には、すでに看護師さんが一人、HCTCの認定を取得していました。私は無理だと思いましたが、先輩HCTCが励ましてくれて、なんとか最後まで続けられました」
中立的な立場でドナーに寄り添うために
諦めずに続けられたのは、HCTCの存在意義に気づいたことも大きい。
非血縁者間の造血幹細胞移植では、HCTCが患者の意思を確認した後に検体を採取。骨髄バンク・臍帯血バンクから白血球の型であるHLAが適合しているドナーをピックアップして、バンク側にドナーとのやりとりを依頼する。
神経を使うのは、HCTCがドナーと直接やりとりをする血縁者間移植だ。同じ両親から生まれたきょうだいはHLAが25%の確率で完全一致する有力なドナー候補だが、移植にはドナーにも負担がかかる。「家族のためでも嫌」と本音を言えないドナーがいることもありうる。
「先生は治療する側なので、どうしても患者さんのそばに立ちます。中立的な立場でドナーに寄り添えるのはHCTCだけです。そう理解してからは勉強に身が入りました」
認定を取得したのは25年2月。移植は年間十数件のペースで実施されており、現在は関係者間を飛び回る日々だ。
「私の仕事は患者さんが退院すれば終了です。でも、患者さんにとって治療は移植して終わりではありません。そのせいか、自分の仕事が終わっても達成感はないですね。私自身、HCTCになったばかり。移植後5~6年して元気にして復帰している患者さんが現れれば、充実感を味わえるのかもしれません」

