DVを生成AIの問題にズラす

今回の阿部事件では、児童相談所に通報した長女を非難する声まで上がった。生成AIに相談して、親から暴力を受けたら児童相談所に通報できることを長女が知った、という話をとらえて、「安易に生成AIなんか使うから父親が逮捕されてしまった」と話をずらすような動きもあった。

「これでは、虐待されて通報しようとする子どもの口をつぐませる結果にならないか。社会が子どもを守るどころか、社会が子どもを攻撃している」と飛田氏は言う。「有名人や人気のある人が間違ったことをした時に、被害を訴えた人を根拠なく攻撃したり、その問題がなかったことにしてしまう。ジャニー喜多川児童性加害問題で、それはいけないと私たちは学んだはずなのに」

床に膝を抱えて座り、顔をうずめる子供
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです

実際、メディアと業界の関係を見ると、似たような構図が存在していないか。ジャニーズ問題では、ジャニーズ事務所とメディアが利益共同体と化し、その結果、喜多川氏が性加害をしているという疑惑はずっとあったのにもかかわらず、「メディアの沈黙」が続いたと批判された。

今回は、野球という人気スポーツの中心的存在である巨人の不祥事であるため、一部のメディアが忖度して、阿部氏に同情的な報道を続けている可能性はないのだろうか。巨人のイメージダウンが起き、人気が落ちていったら、巨人や野球界のニュースを伝えるというメディア側の需要も減る恐れがあるわけだから。

「阿部家の状況は変わっていない」

もっとも、巨人の山口寿一オーナーは「暴力は許されない。監督の暴力は非常に重い出来事」と言明している。人権とビジネスに詳しい伊藤和子弁護士は、「もともと辞任は阿部氏が自主的に申し出たことで、巨人側はそれを慰留しなかったという形。ただ、プロ野球運営も色々なスポンサーで成り立っているので、ビジネスと人権に関する国連指導原則が重視されてきた今、スポンサーの意識も球団のマインドセットも少しずつ進歩している」と話す。

とは言え、「結局トカゲのしっぽ切りになっていないか。辞めたらそれで球団とは無関係、長女の今後の安全についても関知せず、という感じになっている。阿部元監督の家では、失職した親と子どもが同じ家庭内にいる状態となり、子どもたちがとても心配だ。DV(ドメスティック・バイオレンス)も児童虐待も繰り返されることが多い。本来、球団やリーグ側が加害者更生プログラムを用意して、阿部氏に参加を促し今後を見守っていく、というところまでフォローするのが望ましい」と伊藤氏は指摘する。

プロ野球・巨人の阿部慎之助(元)監督=2026年1月31日、宮崎市
写真=共同通信社
プロ野球・巨人の阿部慎之助(元)監督=2026年1月31日、宮崎市