理屈だけを戦わせる議論に意味はあるのか
親友の客間では、男たちが熱く議論を交わしていました。議題は「女子の教育と権利」。女に自由を与えるのは有害だと回りくどい言い回しで述べるのは、ヒロインであるアンナの夫、カレーニンです。アンナが逃げ出したくなる気持ちがよくわかります。
インテリのペスツォフは、「女性は、自由な身になり、教育を受ける権利を欲しています。なのにそれが不可能だという意識にさいなまれ、打ちひしがれているのです」と女性の権利を擁護します。
「わたしのほうは、養育院の乳母に雇ってもらえないことで、さいなまれ、打ちひしがれているよ」と茶化すのは、キティの父親である老侯爵。リョーヴィンが苦手とする軽薄なトゥロフツィンは、老公爵のしょうもないまぜっかえしに大笑いします。
リョーヴィンも、ペスツォフの問題意識を理解できたわけではありません。「女性の自由」が、自分に得をもたらすとは思えなかったからです。昔のリョーヴィンであれば議論に参加し、女の愚かしさをあげつらっていたかもしれません。
しかし彼は議論を黙って聞いていました。キティがいたからということもありますが、理屈だけを戦わせる議論になんの意味があるのかと思い始めていたからでもあります。
「女性の自由」の本当の意味を知る
リョーヴィンはキティにこっそり、トゥロフツィンはつまらない人間だと告げます。キティはトゥロフツィンがキティの姉の子どもたちの看病を熱心に手伝ってくれたことを伝え、それは間違いだと反論しました。
リョーヴィンは素直に反省します。「いや、本当にすみませんでした、これからはけっして人のことを悪く思わないように心がけますから!」
リョーヴィンとキティは、女性の自由と仕事についての議論を二人きりですることにしました。不思議とリョーヴィンは、キティの言いたいことがわかりました。「そうだ、そうだ、そうですね、まったく、おっしゃるとおりです!」。
リョーヴィンはご機嫌をとるために自分の意見を撤回したわけではありません。キティの感情に共鳴することで、ペスツォフが語っていた「女性の自由」の意義を理解できたのです。

