口座が空になるまで何度もATMへ
「支払いは、びっくりするほどちゃんとしているんですよ。僕の場合は、被害金の2割でした。最初1割と言われたんですが、交渉したら2割にしてもらえた。そしたらちゃんと2割払ってくれるんです」
わずか2カ月の間に出し子や運びで4000万円の被害を出した20代の男が嬉々として話す。
ここで、詐欺の世界の専門用語について、確認しておく。「受け子」は被害者から現金やキャッシュカードなどを受け取りに行く末端の犯人。「出し子」は、だまし取られたキャッシュカードを使ってATMなどから出金する。「かけ子」は騙す電話をかける。
「運び」(ライダー)は、それぞれの被害金などを運搬する。互いに兼務することも少なくない。受け子を「1番」、出し子を「2番」、運びを「3番」などと通称しているトクリュウグループもある。
この男は出し子と運び専業の末端犯人だった。指示役の男から言われたコインロッカーへ行く。伝えられていた暗証番号やQRコードで開ける。中には数枚のキャッシュカード。暗証番号はカードにマジックで書かれている。
日付が変わる前に1度現金を引き出す。まず20万円。次に10万円……。設定で1日に出金できる上限額が決まっているため、その上限ギリギリを探りながら引き出す。日付が変わった未明に、もう一度同じことを繰り返す。口座が空になるまで続ける。
これと同時に、他人名義の「飛ばしの口座」への送金も繰り返す。出金上限額と、送金金額の上限額が別で設定されている口座があるからだ。預金額が空っぽになるか、詐欺がバレて口座が凍結されるまで同じ作業を繰り返す。
マニュアルの末尾に「安心してください」
こうした具体的な手口、手法について、詳細に記載されたマニュアルが存在する。実物を見たことがあるが、実に分かりやすい。文字も大きく、イラストも多用されている。マニュアルの末尾には、「あなたは、人を騙したり、盗んだりしていません。安心してください。堂々としていることがとても重要です」などと、ポップな文字で書かれていた。
こうした詐欺を運営している上層部は、事業が継続していくことを何よりも重視している。働きに対してしっかり支払う。働きやすさを追求し、「仕事の内容」を丁寧に説明して失敗しないようにしている。この両輪によって、末端犯人が「またやろう」と思ってもらえるようにしているのだった。
脅すのは最終手段だが、指示役が、末端の実行役に「ぶっ殺すぞ!」と脅しても、実際には殺しに来ることはない。なぜなら金のために行っている“事業”だからだ。殺人は凶悪犯罪でありそれ自体が許されざる凶行であるが、トクリュウたちにとっては、それ以上に、コストメリットが認められないだろう。

