「サクッと直せますよね?」からの大炎上

この言葉が引き起こす「すれ違い」は、時にプロジェクト全体を巻き込む大炎上へと発展します。本書のマンガで描かれているエピソードを一部ご紹介します。

米村歩『「技術的には可能です」はなぜ伝わらないのか エンジニアのコミュニケーションの教科書』(KADOKAWA)
マンガ=ヤギワタル
米村歩『「技術的には可能です」はなぜ伝わらないのか エンジニアのコミュニケーションの教科書』(KADOKAWA)
マンガ=ヤギワタル
米村歩『「技術的には可能です」はなぜ伝わらないのか エンジニアのコミュニケーションの教科書』(KADOKAWA)
マンガ=ヤギワタル
米村歩『「技術的には可能です」はなぜ伝わらないのか エンジニアのコミュニケーションの教科書』(KADOKAWA)
マンガ=ヤギワタル

いかがでしたでしょうか。

「無理です」と言って場の空気を悪くしたくないエンジニアの弱木が、絞り出すように発したのが、「技術的には可能です」という一言でした。

そして週明けの月曜日。システムは期待通りに動かず、顧客から「可能だって言いましたよね? まだ動かないんですけど」と詰められます。弱木は「い、いえ……技術的には可能なんですが、その時間と確認が……」と弁明しますが、後の祭り。エンジニアが正論を放ったつもりが、見事にすれ違い、現場は炎上してしまったのです。

なぜ同じ「可能」でここまで食い違うのか

なぜこのような悲劇が起こるのでしょうか。それは、ひとつの「可能」という言葉が、それぞれの立場でまったく違う意味に解釈されているからです。

エンジニアにとっての「技術的には可能です」は、あくまで「技術の可否」についての返答です。追加工数や優先順位の入れ替え、納期や費用といった前提が整えば実装できる、という限定つきの意味に過ぎません。

しかし、その言葉が営業の耳に届いた瞬間、「やってもらえる約束」へと変換されます。さらに顧客の耳には、「月曜の朝までに完了する」という「契約上のYes」として着地してしまうのです。

根本的な原因は、立場によって「優先する軸」が異なることにあります。エンジニアは安全性や保守性といった「技術の軸」や「リスクの軸」で判断しますが、経営層や営業は、売上や投資対効果といった「価値の軸」や、納期の「時間の軸」を優先します。

「技術的には可能」という言葉は、技術やリスクの軸に立てば正しいですが、価値や時間の観点が度外視されているのです。

【図表2】優先する軸が異なることで起こる対立のイメージ
イラスト=ヤギワタル/図版=Isshiki

これらのねじれは、後になって残業や品質低下、手戻りといった形で一気に精算を迫ってきます。本書ではこれを「安請け合い時限爆弾」と呼んでいます。条件が欠落した「可能」は、爆発の起動スイッチなのです。