現状理解にこそ人文知が必要
【深井】一昔前までは、分業制のもとで各部門が効率性と最適化を追求することが、成果を出すための最も合理的な方法でした。経営層はそれらを統合することで、組織としての力を最大化することができていたのです。でも、いまはどの部門でも、どの職種でも、統合知が必要になっています。
それはビジネスの領域や、ビジネスで向き合う課題の領域が拡大しているからで、どんな仕事でも地球環境問題と無縁ではなかったりします。なので、現状や構造を客観的に理解したうえで、自分の考え方や視点を問い直す。そういったメタ認知や、自分がどう動くかを決断するプロセスが求められているし、それに必要なのが人文知であるというのが僕の考えです。
社会が変化しているから頑張って追いつけということではなくて、社会が変化していることを認識したうえで、自分はどうするのかを決断する。現状をわかっていて決断するのが「自由」ということですよね。わかっていなければ、ただ振り回されることになります。
【山口】リベラルアーツのリベラルは自由という意味で、アーツは技術のこと。つまり、リベラルアーツとは「自由になるための技術」だと私はいろいろなところで主張してきました。一方で、経営学の知見を人生に活かせみたいな本を書いていますし、経営学のフレームワークは有用だとも思っています。
人文知はROIが高い
経営学はいわば現象学の一種で、ある時点で起きていることを最も説明力のあるフレームワークに落とし込んで、未来に投影していくという学問なんです。ところが、世の中というものは変化します。経営学のフレームワークやコンセプトというものは、いつかどこかで整合性がとれなくなるので、それだけに頼っていると危険ですね。物理法則なら基本的に不変ですから、アインシュタイン方程式はおそらく将来も有効だと思いますけれど。
哲学のような抽象的な学問をやってきた人は、所与の情報源からいま起きていることを自分なりのメカニズムとして組み立てて理解しようという知的な努力をしますよね、やっぱり。そうした「しなやかさ」が、変転していく世の中で「習ったフレームワークや知識が使えない」という状況になっても、知的生産のパフォーマンスが維持できる要因の一つではないかなと思っています。
これは、学ぶことのROI(Return on Investment:投資利益率)という視点から言うと、せっかくお金と時間をかけて学ぶなら、時間が経つと使えなくなってしまうフレームワークよりも、学んだら一生使える人文知のほうが、ROIが高いと言えます。さらに言えば、その投資が将来生み出すキャッシュフローを現在価値に換算して、初期投資額を差し引いたNPV(Net Present Value:正味現在価値)が高いのは、人文科学であるという言い方もできると思います。



