2%の物価上昇率が実現する可能性があるとすれば、金融緩和による大幅な円安で輸入インフレが起こる状況だろう。一般に、10%程度の円安が1年間にわたって継続すれば、物価上昇率は0.2%程度、押し上げられる。50%程度の円安であれば、1%の上昇。昨秋に円安が始まる前の1ドル=80円を基点とすれば、120円程度まで円安が進めば2%の物価上昇率目標が一時的に達成できるかもしれない。しかしその状況では輸入価格が上昇し、食料品など生活必需品の価格が上昇する半面、賃金はそれほど上がらない。そうなれば実質的な所得減である。

円安が進むとメリットを受ける輸出企業の株価などが上がり、株を保有している人は、実質所得の減少を相殺できるかもしれない。

ただ、その恩恵を受けられるかどうかは世代によっても異なる。40代後半以上は比較的資産を持っている人が多いので、メリットを受けるかもしれない。しかし若い人たちは資産をそれほど持っておらず、所得もあまり高くないだろう。すると、仮に日銀の金融緩和政策がうまくいったとしても、社会で資産を持つ者と持っていない者の格差が広がる可能性がある。

しかも日銀が2%程度の物価上昇率と言っているのは、消費税の上昇分を除いた数字である。消費税は14年4月に8%へ、さらに15年10月に10%へ上がる。日銀の想定する2%の物価上昇率が実現すれば、12年に比べて、15年度の物価水準は6.8%上昇する。それ以上に賃金が上がらなければ、生活コストの上昇によって人々の生活水準は現在より低下してしまう可能性がある。

07~08年の物価上昇時をみるとまずエネルギー、次に食品という輸入物価の影響を受けやすい順番で値上がりが続いた。現在はすでにエネルギー価格が上昇し、各地で漁船の一斉休漁が相次いでいる。今後も円安が進めば、日銀の政策のメリットよりデメリットを受ける人たちのほうが増えていく可能性がある。

(構成=宮内 健)
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