年金で食べていけるのに、なぜ働くのか

このワークスタイルは、長年体に染み付いているものだ。それは今から17年前、65歳で年金を受け取れるようになっても変わらなかった。妻・潤子さんは81歳のため、二人は年金を受給している。それなのに、なぜ未だにハードワークを続けているのか。

「はっきり言って、年金だけでも十分やっていけるんです。だけど、やっぱり従業員やパートさんを抱えてるから、その人たちのお給料のために働いてるようなもので……。自分たちだけだったら、どうってことないです」(潤子さん)

馴染みのお客さんに対応する潤子さん
筆者撮影
馴染みのお客さんに対応する潤子さん

それでも、営業時間を短縮したり、従業員に仕事を任せたりと、自分たちの労働時間を減らす方法はいくらでもあったはずだ。けれど、そうした議論には一切ならなかったらしい。

「お客さんにも『仕事しすぎだよ』って怒られるんだけどね、やっぱり全部やらないと終われないからダメなんですよ。手抜きができない性格だから。結局、仕事が趣味なの。でなきゃ、こんな馬鹿やってられないよ(笑)」

北原さんの口調は、驚くほど軽やかだった。

40代でタバコを、60代でお酒をやめた

それにしても、なぜ82歳にしてここまで働けるのだろうか。聞けば、体は丈夫らしく、「過去に膝関節の手術をした以外、病気にかかったことはない」と言う。

厚生労働省の「国民生活基礎調査(2022年)」によると、人口1000人のうち、傷病で通院している80歳以上の男女の総数は727.6人。つまり、70%以上が何かしらの持病を抱えていることになる。となると、「病気知らず」の80代はかなり稀な存在だ。そこで、北原さんの生活習慣を深掘りしてみた。

時刻は15時。労働時間が12時間を超えたあたりだが、疲労の色は見えない
筆者撮影
時刻は15時。労働時間が12時間を超えたあたりだが、疲労の色は見えない

まず、40代でタバコを、60代でお酒をやめた。喫煙と飲酒は舌を鈍らせてしまうため、「味付けが塩辛くならないように」と決断したことだ。次に、60歳まではフルマラソンが趣味で、42.195kmを約4時間で走り切っていたという。「今は仕事が運動」と笑うが、15時間働き続けられるのは、長年培った基礎体力があってのことだろう。

さらに、50歳で潤子さんがメニエール病を発症したのをきっかけに、整体師の免許を取得。疲労に伴う肩こりや腰の痛みなど、自分の体のメンテナンスもある程度できるらしい。