蜜月関係でスタートするウォーシュFRB

5月22日、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)のトップが交代し、トランプ大統領が指名したケビン・ウォーシュ氏(元FRB理事)が新議長に就任した。8年間続いたパウエル体制は幕を閉じ、米国の金融政策は大きな転換点を迎える。

米連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長、ケビン・ウォーシュ氏(2026年4月21日、アメリカ・ワシントン)
写真=AFP/時事通信フォト
米連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長、ケビン・ウォーシュ氏(2026年4月21日、アメリカ・ワシントン)

今回の交代劇の背景には、FRBを「自分の言うことを聞かない巨大組織」とみなし、パウエル前議長を強く批判してきたトランプ氏の存在がある。これに呼応するように、ウォーシュ氏も「現在のFRBは権限を拡大し過ぎている」などと厳しく批判してきた。

トランプ氏の「FRBを思い通りに動かしたい」という思惑と、ウォーシュ氏の「肥大化したFRBの役割を元に戻したい」という方向性が一致したことが、今回の指名に繋がったといえる。トランプ氏は約40年ぶりにホワイトハウスで新議長の就任宣誓式を催し、「金融政策はウォーシュ氏に任せる」と述べるなど、異例の厚遇ぶりを見せている。

パウエル体制から何が変わり、何が変わらないのか。ウォーシュ氏は前任者との違いを示すために、大きく三つの政策・改革方針を打ち出してきた。

「AIによる生産性向上」を利下げの理論的支柱に

第一の変化は、金融政策の理論的支柱だ。ウォーシュ氏がトランプ政権の「利下げ要求」に応えるためのロジックとして持ち出してきたのが、「AI(人工知能)による生産性向上」である。AI革命が企業の生産性を飛躍的に高め、供給力が需要を上回ることでインフレが抑制され、FRBは利下げが可能になるという主張だ。これはベッセント財務長官ら政権高官とも完全に歩調を合わせている。

しかし、この「AI利下げ論」という新たなアプローチに対しては、経済の現実から矛盾が指摘されている。

第一に、AI革命が進む過程では、データセンターや電力網への巨大な投資需要が先行するため、短期的にはモノやサービスの価格を押し上げるインフレ要因として作用する可能性が高い。

第二に、AIによって経済の成長力が高まれば、投資の期待収益率が上がり、資金需要も強まる。その結果、経済を熱しも冷ましもしない「中立金利」は構造的に上昇するとの見方がある。インフレを抑制するために、FRBは最終的に政策金利を高めに据え置かなければならないことを意味する。

ウォーシュ氏自身も、議会での承認に向けた公聴会では「AIとインフレについてはより調査が必要だ」と主張のトーンを弱めており、新体制のもとでAI利下げ論がどこまで実践されるかが注視される。