量的緩和への強い拒否感と金融市場の壁

第二の変化は、市場に大量に資金を供給する「量的緩和(QE)」に対する強い拒否感である。パウエルFRBでは、コロナ禍の際に国債等を大量に購入しバランスシートを膨らませることで、大規模なQEが実施された(図表1)。ウォーシュ氏はこれが政府の拡張的な財政政策を助長してきたと批判し、FRBが業務領域を過度に広げるべきではないと警告してきた。

【図表1】FRBのバランスシート(兆ドル)
出所=CEIC

「マネーの膨張がインフレを作る」と説いたマネタリスト、ミルトン・フリードマンのもとで学んだ経験から、ウォーシュ氏は「FRBのバランスシートを圧縮してインフレを抑制しつつ、同時に利下げを進めて景気を支える」という独自のポリシーミックスを志向している可能性もある。

しかし、ここでも「変わらない現実の壁」が立ちはだかる。パウエル体制下ですでにQEが停止され、バランスシートの正常化がある程度進んだ結果、短期金融市場の資金余剰は限界に近づいているからだ。

こうした状況下で、金融規制を緩めるなどの改革を伴わずに急激なバランスシート圧縮を強行すれば、短期金利の急騰や企業の資金調達難を招き、株式市場からの急激な資金引き揚げにつながるリスクがある。現実には、バランスシートの圧縮を急ピッチで進めることは容易ではないだろう。

金融市場とのコミュニケーション見直し

第三の変化は、市場とのコミュニケーション手法だ。ウォーシュ氏の改革の矛先は、FRBの政策決定プロセスにも向けられている。同氏は、パウエル体制下で定着した「ドットチャート(FOMC参加者が将来の政策金利見通しを示すこと)」(図表2)や、「フォワードガイダンス(将来の金融政策の指針をあらかじめ示すこと)」に対して極めて否定的である。

【図表2】FOMC参加者の政策金利見通し
出所=FRB

ウォーシュ氏は、こうしたツールが中央銀行の将来の行動を不必要に縛り、柔軟な政策運営を阻害していると考えている。新体制では、これらのツールが廃止、あるいは大幅に縮小される可能性がある。

しかし、これは市場にとって「FRBとの対話」の質が低下することを意味する。投資家は政策の先行きを見通しにくくなり、経済指標のブレに対して市場が過剰反応しやすく懸念がある。

また、これまでFRB批判を繰り返してきたことも相まって、こうした取り組みを進めるウォーシュ氏に対し、内部から反発が生じる可能性もある。FRB内部の意見対立が表面化し、ガイダンスも失われれば、金融政策の予見可能性は著しく低下することになる。