2001年8月中間期、無印良品を展開する良品計画は38億円の赤字に陥った。現会長の松井忠三氏はそんな時期に社長に就任し、リストラ策とともに業務の徹底的な「仕組み化」に取り組んだ。
なぜ、仕組み化だったのか。
「業績不振の根本的な原因を考えていくと、自分が育ったセゾングループの企業風土にあるのではと思い至りました。もちろん良い面があるからセゾンは大きな企業グループになったのですが、当時は悪い面がもろに出て業績悪化を招いていました」かつて隆盛を誇り、無印良品を生んだセゾングループの悪い面とは、経験主義的な人材育成や業務の仕方で個人にノウハウがつき、組織に残らないこと。発想力は優れていたものの実行力が欠けていた点である。
事業部長時代、松井会長がそれを痛感する出来事があった。新店オープンの前日に開店準備をしていると、他店の店長が応援に来るたび「無印らしくない」と言って売り場をつくり直したのである。結局、夜の12時を過ぎても作業は終わらなかった。
「店長の数だけ正解があると、会社の意思として標準的なお店をつくっていくことができません。そんな非効率な組織で競争に勝てるわけがない。それでセゾングループはイトーヨーカドーやジャスコに負けたんです」
松井会長が仕組み化にフォーカスした理由はここにある。個人の経験や勘に頼っていた業務を仕組み化し、ノウハウとして蓄積し、実行できるように整備する必要があったのだ。
本書には良品計画で取り組まれ、成果をあげてきた仕組み化やマニュアル作成の考え方とノウハウが詳述されている。
ただ、仕組み化やマニュアル化を進めると誰でも業務を実行できるようになる一方、極端な話、それは誰でもよいということにもなるのではないか。
「仕組みをつくり、組織風土を変える。すると、最後は人の問題に戻ってきます。やはり自分の頭で考え、リスクを取って動ける人間の育成が必要です。ただし最初から『人ありき』だと全く勝負にならない。かつてのセゾングループと一緒で、負ける構造にしかなりません」
リーダーは「努力をすれば結果を出せる仕組み」を考えなければならないと松井会長は言う。部下が頑張っている姿を見るだけで満足してしまう上司がいるが、1人ひとりが頑張っても同じ方向に束ねることができなければ成果には結びつかない。
その意味で、本書は仕組みづくりの取り組みを通じ、リーダーの仕事とは何かを考える参考にもなる本である。