アメリカと中国の差はどんどん縮まっている

現在、世界のAI開発は、米・中がしのぎを削る状況になっている。それは、米・中AI戦争とも呼ばれる。足元の状況を確認する資料の一つに、米国の「AI標準・イノベーションセンター(CAISI)」の調査がある。CAISIは難易度の高い問題で推論モデルをテストしており、評価の客観性は高いといわれている。

5月1日の同センターの公表によると、米国の最新の推論モデル(オープンAIのGPT-5.5やアンソロピックのClaude Opus 4.6)は、中国DeepSeek V4 Proに8カ月程度先行した。米国の企業は、世界最先端の製造装置、半導体関連部材で作られた最新鋭の演算装置、メモリー半導体にアクセスできる。その分、中国より高い推論性能を発揮しているだろう。

別の評価もある。米カリフォルニア大学バークレー校の学生・教授らによる「Chatbot Arena」は代表例だ。AIの回答にユーザーが満足するか否かで評価を行う。その基準では、米中最新AIの差は実感するのが難しいまでに縮小しているようだ。

【図表1】ユーザー評価が高いAIモデル

AI開発に没頭した結果、ニート大量発生

中国AIモデルの実用性を引き上げた要因の一つとして、中国勢は米国企業のAI学習データを秘密裏に入手した。それを推論モデル開発に利用(蒸留)したようだ。学習データ剽窃、中国政府の関連産業の支援などが実用性の高いモデルの開発につながったと考えられる。試算のひとつでは、DeepSeekのモデル開発コストは米国勢の180分の1程度のようだ。

その結果、中国では若年層の失業率に深刻な影響が出始めた。3月、25~29歳同世代の失業率は7.7%、前月の7.2%から上昇した。失業率も全体として上昇した。不動産バブル崩壊による雇用機会喪失に加え、AIの影響は大きいとみられる。

それは、中国のIT大手企業の人員削減から確認できる。最も大規模にリストラを行ったのはアリババだったといわれている。アリババは、AIによる業務運営、中長期的な開発資金捻出に構造改革を断行した。昨年、約34%の人員を削減した。採用も進めているが、AI開発者がメインだ。バイドゥ、テンセントなどでも人員削減が進行している。

中国政府は、AIによる業務運営で大量失業が発生すると懸念を高めているようだ。企業がAIによる職務代行で得た利益を、失業者などに還元する“ロボット税”の導入を真剣に検討する政府関係者もいるという。若年層の雇用機会減少によって、AI時代の“ニート(就学、就労、職業訓練のいずれも行っていない人)”が増えるとの悲観論もある。