若手社員だけの問題ではない

そして、五月病は若手社員だけの問題ではありません。30代以降の責任を担う世代も、五月病のリスクを抱えている可能性があります。

なぜなら、この世代特有の重層的な環境変化があるからです。自身の昇進や異動といった職場での変化に加え、子どもの進学や家族の生活リズムの変化など、4月はさまざまな環境の変化が重なりやすい時期です。ストレスとは、必ずしもつらい出来事だけを指すのではなく、一見喜ばしいライフイベントであっても、それが環境の変化を伴うものであれば、心理的負荷となり得る可能性がありますWallace et al., 2023

こうした負荷が5月になって症状として表面化する背景には、身体が環境変化に適応しようとするプロセスに伴う、目に見えないコストが関係してきます。

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ライフイベントとうつ病の発症リスクの関係

五月病の背景には、「アロスタティック負荷」と呼ばれる、目に見えないストレスの蓄積コストが関係していると考えられています。

私たちの身体は、環境の変化に応じてホルモン分泌や自律神経の働きを常に調整し、心身のバランスを保とうとする性質を持っています。この調整には一定の負荷を伴いますが、新しい人間関係や業務への適応が続く4月は、この負荷が蓄積しやすい時期といえます。こうして累積した負荷をアロスタティック負荷といい、その蓄積が個人の対処能力を超えた状態を「アロスタティック過負荷」と呼びますGuidi et al., 2021

アロスタティック過負荷の状態が続くと、疲労感や睡眠障害などの症状が現れ、長期的な心身の健康にも影響を及ぼす可能性が指摘されています。

実際、環境変化を伴うライフイベントは抑うつ症状の発症と関連しており、ライフイベントの内容によっては、うつ病の発症リスクが約3~5倍も上昇することが報告されていますKendler et al., 1999

こうした影響は、4月の環境変化においても例外ではありません。1カ月間、新しい環境に適応しようと頑張り続けた結果、心身の調整機能はストレス処理のキャパシティを超え、結果として倦怠感や気分の落ち込みといった症状が現れる可能性があるのですMcEwen. 2006