オプションサービスの僧侶の出番
火葬場の担当が火葬炉脇の台に仮位牌を置き、「先生、お願いします」と私に声をかける。
ここからが私の出番。香炉で焼香作法のあと、引金を鳴らし、読経を開始する。
「……念被観音力……衆怨悉退散……。それではご焼香ください」
参列者の焼香(※8)の間、時折、派手に引金を鳴らす。宗教的な意味合いはこれまたない。これが簡素な見送り方のコツで、荘厳な雰囲気も醸し出せる。
焼香はあっというまに終わる。葬儀社の担当に目配せして「これで結構です」と伝える。何も結構なわけではないが、終わる潮時という意味だ。
火葬炉のあるホールを出たところで、葬儀社の担当が告げる。
「ご住職はこちらでお帰りになります」
成人の火葬には1~2時間を要する。火葬炉の順番待ちがあると、さらに遅れることもある。それを待たず、僧侶の仕事は火葬前で終了だ。
「今日はお世話になりました」
私は深々と頭を下げ、火葬場をあとにする。
※8 焼香
香を焚いて仏や故人に供える作法。参列者が香炉に抹香をくべ、手を合わせて拝む。焼香の回数は、真言宗や天台宗は3回、曹洞宗は2回、臨済宗や浄土真宗は1回など宗派によって異なり、また寺院の作法や地域の慣習によっても違いがある。


