僧侶付きの最安値プラン「火葬式」
最安値プラン「みんなのお別れ葬」には原則的に僧侶は呼ばれないので、私が赴くもっとも廉価な葬儀は「みんなの火葬式」となる。
「火葬式」では、通常「通夜→葬儀→火葬」という段取りを「火葬」だけで済ませる。僧侶の仕事としては、火葬場の火葬炉前での読経ですべてが完結する。
ところで、この火葬式の仕事を、私はけっして嫌いではない。火葬炉前では時間の制限があり長時間の作法ができないため、読経時間は10分程度。着用する法衣は、僧侶の普段着である黒の改良服(※3)に簡易な袈裟で手間がかからない。言い方はおかしいが、気楽な仕事といえる。
※3 改良服
従来の和装中心の僧衣を、現代の生活や儀礼に合わせて実用的に改めた服装。明治以降、僧侶の都市生活が増えたことで広まり、戦後は多くの宗派で一般化した。色は黒・鼠色・紺など落ち着いたものが多く、襟元にその宗派の略式の袈裟をかけることで僧侶としての身分を示す。
オプション料金を受けとるタイミング
今日も「みんなの火葬式」の仕事で火葬場を訪れると、葬儀社の担当が「東法院さまですか?」と声をかけてきた。
用意した紙位牌を渡すと、担当者が白木位牌(※4)を取り出し、手慣れた様子でスティック糊で貼り付ける(※5)。仮位牌の一丁上がりだ。その間に喪服を着た人々が集まってきて、担当者から施主の50代らしき男性を紹介される。
「輪島です。本日はよろしくお願いいたします」
布施はこのタイミングで受け取るのが習いだ。今回の“オプション料金”は8万5000円(うち私の手取りは3万4000円)。火葬場の入口に移動し、霊柩車を待つ。とはいえ、最近では霊柩車の代わりにふつうのボックスカーが用意されることが多く、今回も同様。係員が棺を抱えてボックスカーから下ろす。
棺が台車に乗せられると、「それではご住職のあとを一列に進んでください」という火葬場事務員の指示に従って、私が手持ちの引金(※6)を小さな金属製の棒で叩きながら、火葬炉があるホールに入る。
※4 白木位牌
葬儀で使用する位牌は仮のもので、いずれ塗り物の本位牌を用意する。宗派によって考え方は違うが、仮位牌は依代のようなもので、死者の霊が一時的にそこに宿るとする。とはいえ、仏教にそのような思想があるわけではなく、一種の俗信で、位牌自体が儒教から来た習俗であるとみていいだろう。原則として、白木位牌は四十九日までで、四十九日法要の際に本位牌に替える。
※5 スティック糊で貼り付ける
仮位牌は白木で作られていて、その上に直接、戒名(あるいは俗名)を墨書するか、仮位牌用の用紙に戒名を記し、白木位牌に糊で貼り付ける。戒名を書き間違えることもあるため、紙位牌を白木位牌に貼り付けることが多い。
※6 引金
仏教儀式・法要で使われる、金属製の小さな鉢(椀)のような形状の鳴らし物。柄に紐で結わえた細い金属の打棒(桴)で縁を打って音を出す仕組みで、この音で儀式の進行の区切りやテンポの合図を行なう。
ドラマチックな音の演出
火葬炉は5つ。金属製の扉の横にそれぞれ台が置いてあり、そのうちのいくつかには仮位牌が置かれている。その炉は火葬の最中ということだ。ホールの中に遺体の焼却時のニオイ(※7)が漂っていた。
火葬場の担当は、棺を所定位置にまで動かすと、棺の蓋を開けた。葬儀社の担当が生花の大量に入った容器を抱えてきて、「どうぞお花を棺にお入れください」と施主に促す。
「お父さん、あちらではお母さんと仲良くしてね」「おじいちゃん、ありがとう」
すすり泣く声も聞こえる。
「お名残も尽きないかとは思いますが、蓋を閉めさせていただきます」
葬儀社の担当が蓋を閉め、火葬場の担当が棺をのせた台車を火葬炉扉の前に運び、火葬炉の扉横のボタンを押すと金属製の扉が開く。
「それではお別れでございます」
火葬場の担当者の声とともに扉が閉まる。ここで私は引金を3回ほど派手に鳴らすようにしている。仏教的な意味合いはとくにない。ドラマチックな音の演出である。
※7 遺体の焼却時のニオイ
煙たいような、油臭いような、生臭いような独特のニオイ。僧侶になって数十年経つが、このニオイにはどうしても慣れることができない。

