それを実行しているのが「クルー」と呼ばれる店舗スタッフで、全国に約17万人います。その半数は1年間で入れ替わりますから、クルーの経験者は、日本だけでも数百万人に上る。そして年間のべ16億人のお客様が来店します。ハンバーガービジネスは、とてつもない「ピープルビジネス」なのです。

またハンバーガーは、きわめてスピードの速いビジネスでもあります。私はかつてアップル社にいましたが、IT業界よりも速いのです。IT業界の変化の激しさは、よく「ドッグイヤー」という言葉で表現されますが、それはテクノロジーの変化であって、ビジネスはそれほど速くはない。たとえば今日やったことが、明日の結果に表れるようなことはないのです。

ハンバーガービジネスは、今日やったことは、その日のうちに業績に表れます。雨が降れば、客足が落ちる。携帯クーポンを出せば、すぐに結果がみえる。すこし気を許せば、その日からクルーが足りなくなる――。

16億人のお客様から1円多くいただければ16億円の利益、逆なら16億円の損失です。それだけに、1人ひとりがみずから判断し、率先して動くことが重要になります。ところが、頭のいい人間ほど、テストをやりたがる。

こんな例があります。ある店舗を全面禁煙にしました。店長に聞くと「一時的に客数は落ちたが、その後は新規顧客が増えてリカバーした」という。私は、マーケティング部に「全面禁煙」の大きなステッカーを店の前に張るように指示しました。しばらくして「どうなった」と聞くと「実験をします」という答えが返ってきました。ステッカーを貼ることで非喫煙者がどれだけ増えるかを調べるのだといいます。私は「そんな実験は要らない。失うものは何もないぞ」と叱りました。