「自認する性」で生きることが最善

私は二つのことをすぐにやった。一つはAmazonで『性同一性障害って何? 増補改訂版』(緑風出版)という本を買い求めたことだ。もう一つはやはりネットである。性同一性障害は治療の対象なのか、そうでないのか私には知識がなかった。

いくつかの大学病院精神科のホームページを検索して、すぐに答えは分かった。だいぶ昔にはカウンセリングで心身の性を一致させるような試みもなされたようだが、それらはすべて無効だったという。つまり精神医学的には治療の対象ではない。自認する性で生きていくことが本人にとって最善ということが分かった。

女性患者を問診する心理学者
写真=iStock.com/bymuratdeniz
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それはそうかもしれない。私が大学病院小児外科に勤務していたとき、総排泄腔外反そうはいせつくうがいはんという非常に複雑な先天性疾患の子を治療したことがあった。詳しくは説明しないが、生まれつき、直腸・肛門や生殖器がきちんと形成されていない疾患だ。この疾患の赤ちゃんは染色体が男児であっても、男性としての外性器を欠く。そこで、腹腔内にある精巣を摘出して女児として育てることが当時は標準だった。ところが、幼稚園児くらいまでに育っていくと、その子は男の子の振る舞いを始める。

医学的には胎生期に男性ホルモン(アンドロゲン)の血中濃度が上昇し、脳が男になるからだと、その後の研究で分かってきた。この現象をアンドロゲンシャワーという。性同一性障害の成因は不明だというが、これと似たようなことが胎生期に起こっているのかもしれない。

苦しいのは本人だ

となると、光に対してやってやることは、児童精神科を受診させることではない。受診させても何も解決しないだろう。この子の人生を男として生きやすくしてやることが最重要だ。

性同一性障害って何? 増補改訂版』を精読してみる。そこには性別適合手術のことや、戸籍の性別変更の話もけっこう詳しく書かれていて、さすがにそれらをすぐには受け入れる気持ちにはなれなかった。だが、そんなことは言っていられない。苦しいのは本人だ。私は、光を自室に呼んだ。

「光は、自分が男だと思っているの?」
「思ってる」
「自分の身体がイヤ?」
「うん。イヤ」
「女だからって、いじめられたり、嫌がらせを受けたりしたことはある?」

これは性同一性障害の診断をつける上で大切な質問だ。

「そんなことはない。みんなよくしてくれる」
「……じゃあ、おちんちん、あった方がいい?」
「あった方がいい」
「分かった」