認知症に対する強力な予防策に

書くという行為は、単なる記録ではありません。考えを整理し、言葉を選び、文章を組み立てる。この一連の作業で、前頭葉が強く刺激されます。

たとえば、毎日手帳やノートに、その日の予定や出来事を書く。

スマホで管理するのも便利ですが、手を動かし、漢字を思い出し、文章を構成する。そのすべてが脳トレとなります。

もちろん、皆さんは作家を目指しているわけではないでしょうから、いきなり長文を書く必要などありません。

その代わり「今日やることをひとつ書く」。まずは、これを習慣化してください。続けていけば、小さな達成感がドーパミンを分泌させ、脳も元気になります。

もし物忘れが気になり始めたら、付せんを活用するのもいい方法です。思いついたこと、人の名前、予定などを書いて壁に貼る。これで「書く脳トレ」と「物忘れ防止」という、一石二鳥の効果が得られるでしょう。

このように手書きの効能を挙げましたが、私自身は毎日パソコンで原稿を書いています。パソコンのほうが、書き直しが容易という利点があるからです。何度も修正する過程そのものが思考の訓練になります。

ラップトップで作業をする男性
写真=iStock.com/Tippapatt
※写真はイメージです

もっとも手書きであれ、キーボードを打つのであれ、大切なのは形式ではありません。心を込めて書くことです。

その点、年賀状も立派なアウトプットになります。ただし、印刷した文に儀礼的にひと言添えるだけでは、脳への刺激はあまり期待できないでしょう。

皆さんが恐れているであろう認知症は、突然やってくるわけではありません。静かに、ゆっくりと進み、いつの間にか、メモをとること自体難しくなります。

だからこそ、元気なうちから書くクセをつける。これが認知症に対する強力な予防策となるのです。

キーボードを打つだけで、脳に強烈な刺激

私は毎日、パソコンで文章を書いています。これは職業ですから、書かない日はありません。

パソコンで文章を書く作業でも、前頭葉を十分に使っています。何を書くかを考え、構成を組み立て、言葉を選び、手直しをする。そのうえ、キーボードを打つという指先の運動が加わる。つまり、これは脳と指の連携作業です。

手や指は「第2の脳」ともいわれ、大脳皮質の広い範囲を使います。どのキーをどの指で打つかを瞬時に判断し、誤字を見つけて修正する。この一連の動きは、慣れてしまえば単純作業のように思えますが、実は高度な脳活動なのです。

男性の患者さんに、定年後どう過ごしているか尋ねたことがあります。最初はテレビ中心の生活でしたが、あるとき娘に勧められてパソコンを始めたそうです。

最初は指1本で入力していたのが、半年後には両手で打てるようになり、町内会の広報誌を作成するまでになりました。

そして、久しぶりに会うと「最近物忘れが減った気がします」とのこと。実際、会話の反応も速くなっていました。キーボードを打ち、文章を考え、レイアウトを工夫する。その習慣が、脳への刺激になっていたのでしょう。

さらに前述したように、パソコンには「いくらでも書き直せる」という大きな利点があります。