常に現場に寄り添ってリードする

「走りながら考える」うえで、CFO(最高財務責任者)的発想で物事を捉えることも、今の私に大きく影響している。私は総合商社のトップとしては珍しくCFO出身だが、この職務は、日本でもっと重視されるべきだと思う。

80年代に私は米国で衝撃的な場面を目の当たりにした。米国の企業と新しいビジネスやM&Aの話をするとき、全体的な責任者として交渉のテーブルにつくのは、みんなCFOだった。CEOが登場するのは、本当に最後のステージで、全体を取り仕切るのはすべてCFOなのだ。どの分野でもファイナンスは不可欠であって、そこを把握しているCFOが常にリードしていかなければ、プロジェクトは成功しない。

当時、私は30代。財務畑にいて財務部長になれるかどうかもわからなかったが、この光景を見て、「行動するCFO」の強さを確信した。

だから、財務部の一員としてプラント建設など大型案件を受け持ったときには、プロジェクトを少しでも円滑に進め、付加価値を高めようと、社内の担当部門や銀行にしつこいくらい足を運んだ。常に現場に寄り添いながらリードする「行動するCFO」こそが、会社を強くするという信念があったからだ。今、社長として、自ら現場に足を運ぶのも、この哲学があるためだ。

もう1つ、私の思考に欠かせないのがポジティブシンキングで、自他ともに認める明るい性格だ。経営者が暗かったら、社員が元気にプライドを持って営業に行けず、会社も伸びない。

この前向き志向や持ち前の明るさは、プレゼンテーションにも役立つ。同じことを話しても、話し方1つで相手への届き方が大きく異なる。例えば話の内容はいくつかの鍵となるフレーズだけ用意しておき、あとはその場で肉付けしながら“生き生き”と話す。思考法を磨くなら、最後に披露するときの伝え方も磨いておくべきだ。

丸紅代表取締役会長 朝田照男
1948年、東京都生まれ。都立千歳高校卒。72年慶應義塾大学法学部を卒業し、丸紅入社。2002年執行役員、財務部長、04年常務執行役員、財務部長、IR担当役員、05年代表取締役常務執行役員、06年代表取締役専務執行役員、08年社長、13年から現職。父は元運輸省事務次官、元日本航空社長の朝田静夫。
[座右の銘・好きな言葉]「動中の工夫は静中に勝ること1100億倍」
[最近読んだ本]『ザ・ラストバンカー西川善文回顧録』
[ものごとを考える場所]家でも考えるが、80%は会社
[顧客の声を知る手段]取引をしているお客様と積極的に会って話す
(斎藤栄一郎=構成 市来朋久=撮影)
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