世の中はさまざまな情報に満ちている。玉石混交の中から、有用な情報を見つけて整理し、ビジネスに役立てるにはどうすればいいか。結論を先に述べてしまうと、努力と経験によって、ビジネスの勘を磨いていくしか方法はない。それには次の5つのポイントがある。順に説明しよう。

もっとも重要なのは、(1)「思考の足腰力を強化する」ことだ。

アサヒグループホールディングス社長 
泉谷直木氏

たとえばマーケティングの仕事をしているなら、まずはSWOT分析やSTP理論、PPMといった、その道のオーソドックスな原理・原則を知らなければならない。そのうえでこそ、情報を取捨選択できるようになる。

私は10年間、広報の仕事を担当してきた。広報マンの日課は、新聞やテレビ、雑誌などのメディアをくまなくチェックすることである。この仕事では、日々多くの情報に接するため、どれが重要かを判断することが求められる。そのためには、判断するためのフィルターを持ち合わせていなければならない。そのフィルターが、原理・原則に当たる。

ただし、人間とは忘れる動物である。自分の頭に原理・原則を叩き込むには、繰り返し「手で書く」ことによって記録し、記憶することを勧めたい。私はこの20年来、スケジュール管理用の小さな手帳を活用している。

スケジュール欄の右ページには経営学の理論やマーケティングの法則、あるいは、その年の世界的なテーマとなるであろう事柄(たとえば環境問題や食糧問題など)について、要点を自分なりに整理し、シャープペンシルの細かい文字でどんどん書き込んでいくのだ。年初に行うこの恒例行事は、現在まで20年間欠かさず続けている。

また、翌週の面会相手についても、ちょっとした情報を書き留めている。得意先の会社のデータや社長の人となりはもちろん、現場で会うことになっている社員が何年入社か、どんな成績をあげたかなどを調べておく。

すると、社員とビールを酌み交わすときに、「お、君は2000年入社やな。2年前はえらい成績をあげたそうやないか」と、すんなり話に入れるのだ。相手との距離を近づけるためにも、「書く」ことは大事だと実感している。

勘を磨くためのポイントの(2)は「思考の俯瞰力を強化する」ことだ。全体を見通すことができなければ、個別の情報を得てもそれは単純な情報=インフォメーションにすぎない。しかし2軸で表現する、マトリックス化する、といった手法を身につけることで、真の情報=インテリジェンスとして活かすことができるのだ。