社員の力を最大限引き出す
松下幸之助と同様、名経営者として知られる本田宗一郎はどのような人物だったのだろうか。松下幸之助と本田宗一郎は、商人と技術者、神経質と豪放など、キャラクターは正反対だった。経営手法も趣が異なる。しかし、2人の生きかた、働きかたの根本は驚くほど共通する。
本田宗一郎の経営手腕を見てみよう。
「困らなきゃダメです。人間というのは、絶体絶命の危機に追い込まれたときにほんとうの力が出る。人間はやろうと思えばたいていのことができる」
「われわれは、自動車をやる以上いちばん困難な道を歩むんだという意識でやってきた」
本田宗一郎の「危機」や「困難」は、あえて招き寄せるものでもあった。会社設立間もないころ宗一郎は、
「会社が潰れても残った機械が日本のために働く」
と腹をくくり、資本金の7倍もの設備投資を行った。結果、手形は落とすことができず倒産の危機にさらされた。
ところが同時に世界オートバイレースへの「参入・優勝宣言」をして、あえてもう一つの「危機」をつくりだした。その後出場までに5年かかったが、出場から2年後、ホンダはグランプリを独占した。まさに危機と困難をバネにしたのだ。
さすがの宗一郎も前述の巨額、高リスクの設備投資について、
「もう二度とやってはいけない」
と反省したが、一方では、
「あれをやらなければ今のホンダはない」
とも回想した。
その後も、再三再四の危機のたびにホンダは生き残り、驚くべきスピードで世界企業に成長した。逆境活用力による奇跡の勝利なしに、天下はとれないのかもしれない。
ビジネスで、リスクをとらずに困難を避けていては、宗一郎から一喝されてしまうだろう。