自分を成長させる人と出会うには

宗一郎は、ホンダの経営において、自分と正反対といえる藤沢武夫(副社長)と組んだ。2人は、体形も性格も思考法も趣味もまったく対照的だった。あまりに異なる性質は水と油になりかねない。しかし宗一郎は、

「藤沢は技術以外では、自分にはないすばらしい腕前を持っている。だから手を組んでいるのだ。藤沢がいなければ、会社はとっくに潰れて、おれは今頃、自動車の下にもぐって修理をしていたかもしれない」

と言い、互いに「任す」「任される」ことを極めた。宗一郎は社長印まで藤沢に渡してしまうほどだった。これは、経営において禁じ手と言われる、二頭政治に見えるかもしれない。

しかし馴れ合いではない緊張関係と緊密な信頼関係が、互いの力を最大限に引き出しホンダは驚異的な発展を遂げた。

2人を結びつけた要因は何だったのか。それは、互いに優れている能力を認め、人間観・人生観・仕事観・事業観・会社の未来観などを一致させたことにある。藤沢は宗一郎の夢をかなえ、宗一郎の人間観・事業観をマネジメントで実現しようとした。宗一郎も高効率・高収益を商品のなかに実現した。

この一心二頭政治の成功を例外というのはたやすい。しかし「異質な相手と互いの違いを生かす人間関係」の結果を偶然とかたづけるべきではない。藤沢が、引退する旨を人を通じて宗一郎に伝えたとき彼は言った。

「おれもやめる。おれたちは二人で一人なのだから」

2人は最後まで一心一体だったのだ。

日本のビジネスマンは同質ばかりを求めがちだ。しかし時に異質と多様に向き合い、受け入れることも大切なのだ。

松下幸之助と本田宗一郎は歴史上の人物になりつつある。日本企業に元気がない今だからこそ、ビジネスマンが幸之助と宗一郎に学ぶべき点は多い。