今、日本のビジネスマンは、松下幸之助や本田宗一郎のように「志」と「愛」を持って仕事に打ち込み、周囲の人を魅了する「人間力」と「知恵」を磨いているだろうか。2人からビジネスのヒントを学んでみよう。

困難に対する心構えとは

松下幸之助●「経営の神様」はPHP研究所や松下政経塾など教育にも力を注いだ。(Time&Life Pictures/Getty Images=写真)

デフレ、円高、競争の激化など、経営者を悩ませる事柄は尽きない。松下幸之助は常に泰然自若としていたのだろうか?

「僕は神経質で人一倍気にかかる方ですわ。それは今も変わっていません」(80代)

幸之助は、ものごとを悲観したため、年老いてからも睡眠薬の助けを借りなければ眠れない日も多かった。

だから会社が危機に陥りそうになると人一倍心配した。「このままでは潰れるかも知れんぞ」とつぶやくのを何人かの幹部が耳にしている。好調時でさえ幸之助は危機感をあらわにして警鐘を鳴らすことが多かった。

ところが、会社がいよいよ危機に陥ると一転して「こうすれば必ず良くなる」と、希望の鐘を打ち鳴らした。

危機の最中は前向きな姿勢を心がけ、絶好調のときは内外の危機を真っ先に感じ取り、事前に天狗の鼻をへし折ったのだ。

幸之助が、過剰に自分や会社を憂い、最悪の事態まで想定する遠因は、その生い立ちにある。

「どうしようもないからすべてあなた任せや。絶体絶命になればまた生きる道があるのや……あのときもそうだったからな」幸之助は若いときに、8人兄弟のうち7人を肺尖カタルで亡くしている。幸之助も同じ病気にかかり「来るべきものが来た」と腹をくくった。以来この考えを持ち続け、起業してからも人一倍心配しながら、逃げずに解決する方法を真剣に考えていた。

「そういうときに飛躍的な考えが出てくるのです。だから、神経質でありながらどこかに度胸ができたのですね」

幸之助は鋭敏で思慮深いところを持ったまま、正反対の度胸を手に入れた。中国や韓国に脅かされている現在の日本。この状況の中、ビジネスマンたちは危機感が弱すぎるのではないか。困難には真正面から立ち向かわねば局面は打開できない。