周囲を変えるための秘策とは

幸之助は、「自分が変われば周りも必ず変わる」という確信を持っていた。

「経営がうまくいくのもいかないのもすべて経営者に原因がある」

「原因をわれに求めよ」

と頻繁に口にした。

企業の成長は、企業家自身の自己革新のプロセスだ。幸之助は次のように述懐している。

「従業員が少人数のときは、自ら率先垂範したらみんな動いた。しかし、100人、1000人となっていくと、指示命令はもちろん、権限委譲や衆知を集めることが必要になった。1万人、2万人になると『どうぞ頼みます』、5万人10万人になると、『手を合わせて拝む』という心根が必要となった」

深刻な不況で、松下電器の販売会社の大半が赤字に陥ったとき、幸之助は、自らその窮状を聞きつくしたうえで、

「皆さんにもっとしっかりしていただきたいと思っていましたが、原因はすべて私どもにあります。……一からやり直します」

と反省し涙ながらに詫びた。このときの言葉が松下電器の販売大改革の起点となった。

危機や困難に遭遇するたび、幸之助はまるで悟りを開くように、「使命感」を自覚したり、「PHP(繁栄によって平和と幸福を)運動」を始めたり、人生観や世界観の意識革命を起こしている。リーダーは事が思うように運ばないとき原因を自らに求めるべきだろう。