専門家の「翻訳」で知識を血肉化する

ただし、手法を学んでも、それを使えなければ意味がない。身につけた手法を自分の血肉とするためには、何より経験を積むことが大切だ。

私の場合は、30代半ばのころに、当時の村井勉社長から命じられてCI(コーポレート・アイデンティティ)導入の実務を担ったことが、いま思えば得がたい経験の場になった。

課せられたミッションは、アサヒビールの新しいイメージをつくりあげること。そのために、社内の意見だけではなく社外の専門家の知恵を借りることになった。

このプロジェクトを通じて、マーケティングを専門とする大学の研究者や広告代理店のプランナーなど、第一線で活躍する方と出会った。狭い視点で物事をとらえていた私に、彼らは新たな興味深い視点を提供してくれた。

また、彼らと会話をするためには、専門用語を理解するための勉強が必要だった。このことをきっかけに、マーケティングの知識を頭に叩き込んだ。さらに、そこで勉強したことを社内に通じる言葉で私自身が説明しなければならない。いわば社内向けの翻訳作業だ。このプロセスを踏んだことにより、私はブレーンの方々から得た知識を消化し、自分自身のものにすることができたのである。

同時に、外の声を取り入れる重要性にも気づくことができた。「俯瞰力」を養うためにも、私は意識的に社外の人と出会う場を設けている。

次に大切なのは、(3)「思考の跳躍力」である。いま得られる事実を組み立て、将来を想定する。そのときには、単に「いま」を延長するだけではなく、思考の跳躍が求められる。

跳躍のために欠かせないのが「バネ」だ。たとえば、次のようなロジックがある。

ビール業界にとって避けがたい話題にシェア競争がある。それを議論する際に基礎となるのが、クープマン目標値というシェア理論である。73.9%なら独占的市場シェア、41.7%なら安定的トップシェア、26.1%なら市場影響シェア……というように、クープマンは、シェアの目標値を掲げ、それをクリアできればどういったポジションを獲得できるかを定めている。

こうしたロジックを頭に浮かべることで、当社の置かれている状況を俯瞰し、さらに未来へ向けて発想を飛躍させることができる。これが思考の跳躍力をもたらす「バネ」である。