駿河湾の魚がずらり
自称「シーラカンス追っかけ」からすると、ぜひ真相を知りたくなる。7月上旬、水族館の問い合わせフォームから取材依頼を送ってみた。
すると、運営する佐政水産株式会社(本社・静岡県沼津市)の代表取締役社長で水族館の館長である佐藤慎一郎さんが取材に応じてくれることになった。
7月19〜21日の3連休以外で、かつ8月の繁忙期となる前にというメールをもらったので、7月28日の平日に出向いた。
ポプラ社で本書を担当している女性編集者と沼津駅で待ち合わせ、開館時間の午前10時少し前に現地に到着する。僕も彼女も初訪問だったので、佐藤さんとのアポの前に館内をひと通り見学することにした。
1階には沼津港がある駿河湾に生息する魚を中心とした水槽が並ぶ。僕はダイバーで、大学生の頃には魚を被写体とする水中写真を撮っていた。水中写真のコンクールへの応募歴もある。そんな魚好きには、こちらの展示は特に魅力的。
お団子のような丸いフォルムをしたダンゴウオは、ダイバーの人気者だ。そのダンゴウオ科に属し、お菓子の金平糖のようにゴツゴツしている「コンペイトウ」がいて、大いに萌えた。いくらでも過ごせるが、持ち時間に限りがあるため上階に向かう。
シーラカンスの展示は、すべて2階に集まっている。階段を上がると「シーラカンス・ミュージアム」の看板の下で、「シーラじい」が出迎える。目や口が動くシーラカンスの模型で、来場者に語りかけてくる。
「そこのあなた、そうそうそこのあなただよ」
「わしはここでずーっとあなたを待っておったんじゃよ、ふふふふふふふふ」
「自己紹介ぐらいさせておくれ。私はずっと昔からこの地球に住んでおるシーラカンスのシーラじいじゃ」
「いつからだって? 野暮なことは聞かないでおくれ。3億5000万年前からじゃよ。どうだ驚いたか! それじゃ中に入って、もっともっと驚いておくれ。仲間たちが皆さんを待っておる」
「ほーらほら、行った、行った! ここらでわしはもうひと眠り」
ハリモグラや巨大復元図も
シーラじいに促され中に進むと、先のスタッフが触れていた「古代の海を再現したジオラマ」がある。そのケースの手前には、「シーラカンス捕獲に使用したカヌー」が置かれていた。長さは3.5メートルほどだろうか。案内板には「現地では大人ふたりがこのカヌーに乗り込み、夜間にシーラカンス捕獲へ向かいました」とあった。
ジオラマには、アンモナイトや三葉虫に囲まれる形で2体のシーラカンスのはく製標本が置かれていた。こちらの2体は先の女性スタッフの言葉通り、確かに黒っぽい。
反対側は、南アフリカの博物館員でシーラカンスの第一発見者のコートネー・ラティマーさんや同じく南アフリカの魚類学者でシーラカンスと特定したJ・L・B・スミス博士の功績を紹介する展示になっている。6分ほどのポップなアニメでシーラカンスの「発見秘話」が学べる。小学校低学年の児童でも理解できるようなまとめ方に、水族館のサービス精神を感じる。
口絵や「大量絶滅(ビッグ5)」の年表や説明もある。その下には、生きているハリモグラがいるのだが、これにはもちろん理由がある。カモノハシと同じ仲間で「単孔類」に属するハリモグラは、2億年ほど前の三畳紀に誕生した。そして、ちょっと変わった哺乳類として、次の3つの特徴を持っている。
・繁殖方法は卵を産むこと(卵の大きさは直径1・5センチ、産卵数も1個だけ)
・体温調節が苦手で、外気の温度に左右される(変温動物に近い)
・卵から孵化した赤ちゃんは母乳で育てられる
哺乳類は爬虫類や鳥類から進化したと考えられているが、ハリモグラは、その進化の中間に位置しているかのような生き物だ。シーラカンスが両生類への進化の途中の魚であるのと似ているため展示されている。
その奥には、壁に巨大な模型が貼り付けられていた。第2章(『シーラカンスに会いに行く』)でも紹介したシーラカンス目マウソニア科の「マウソニア・ラボカティ」の復元図だ。全長が4メートルにもなるだけに、迫力満点。こんな巨大魚が悠々と海で泳ぐ姿を想像すると、実にワクワクする。

