懸念される「発射能力」以前の問題

もっとも、近隣国が歓迎しているからといって、課題がなくなるわけではない。日本の防衛力拡大には、現実的な制約が2つある。

ワシントン・ポストが伝えるように、高市内閣は昨年12月、敵のミサイル発射拠点などを攻撃するための反撃能力の強化を柱とする、過去最大の9兆円超の防衛予算案を閣議決定した。規模としては大きく構えたが、財源の裏付けは心もとない。

戦略国際問題研究所の分析によると、日本の債務残高はGDP比約240%と、先進国で最も重い。政府は2022年、2027年度までに防衛費をGDP比2%へ引き上げる5カ年計画を策定した。政権はさらに踏み込み、この目標を2年前倒しで達成すると公約している。

ただし同研究所は、2%達成の裏で「防衛関連」の定義を広げるなど、見かけ上の数字の操作が一部含まれていると指摘する。

財源に充てるはずだった増税も完全には実現していない。直近2回の国政選挙ではむしろ、インフレに苦しむ有権者を前に、複数の政党が減税を訴えた。先進国最大の政府債務を抱えたまま、いかに実質的に防衛費を確保できるか。財源の課題が立ちはだかる。

問題の2点目は、肝心のトマホークの供給だ。

米海軍の艦艇から発射されるトマホーク
米海軍の艦艇から発射されるトマホーク(写真=米海軍/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

ディフェンス・ニュースによると、米軍の対イラン軍事作戦「エピック・フューリー」では、わずか4週間で800発超のトマホークが消費された。一つの作戦だけでこの消耗量となれば、海外で有事が起きるたび、日本を含む同盟国への供給にしわ寄せが及びかねない。

とはいえ、米国防総省とトマホークの製造元であるRTXは今年2月に増産契約を締結している。今後、年間生産能力を1000発超へ引き上げる計画だ。同紙の取材に応じたINDSRの安全保障専門家のブランダン氏も、「アメリカはインド太平洋の重要な同盟国として日本を優先する可能性が高い」と述べている。

財政と供給という課題は残るが、防衛力強化に動き出したこと自体はアメリカや中国の脅威を肌で感じる東南アジアの国々に高く評価されている。

台湾有事でトマホークが果たす役割

ランド研究所は、厳しい予測を示している。

同研究所のシナリオでは、仮に中国が台湾を制圧したならば、中国は日本の海上交通路をいつでも遮断できる立場を手にするとの結果が得られたという。さらに、アメリカのプレゼンスが後退すれば、中国は西太平洋全域に力を及ぼしうるとの分析だ。

日本にとって台湾有事は、見知らぬ他国の危機というわけではない。経済と安全保障の生命線に直結する事態ともなりかねない。同研究所は、次のような架空のシーンを描いて問題提起する。将来、日本の首相がある朝目覚め、台湾を象徴する超高層ビルの台北101に中国国旗がひるがえっていると知ったなら、「なぜ日本はまだ動けるうちに行動しなかったのか」と問わずにはいられないだろう、と。

万一脅威が現実化するのなら、それはいつか。この時間軸をめぐっては、一定の猶予があるとする評価もある。

米国家情報長官室(ODNI)は3月18日、2026年版「年次脅威評価」を公表した。AEIが詳しく分析している。それによると、中国指導部は2027年の台湾侵攻を現時点で計画しておらず、統一に向けた具体的なタイムラインも設けていない公算が高いという。

ただし、同報告書には、中国が台湾およびインド太平洋地域で今後も威圧的行動を続けるとの見通しも明記されている。侵攻が差し迫っていないからといって、脅威が遠のいたわけではない。

中国は海上演習で事実上の活動範囲を広げ、統一に向けた条件を着々と整えている。今回、「ちょうかい」がトマホーク発射能力を獲得したことで、台北101に翻る旗が変わる前に、日本は動き始めたと言える。

トマホークの搭載は「遅すぎたほどだ」とアジアの国々は言うが、同時に、なおも判断が「間に合った」証でもある。

台湾有事に関しては、まずは侵攻に至らないことが何よりだ。同時に、行動の読めない隣国を牽制する上で、トマホーク発射能力の獲得は理に適った行動だと、周辺国は肯定的に受け止めているようだ。

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