ヘミングウェイはなぜ「立って働いた」のか?

アーネスト・ヘミングウェイ(1899~1961)

アーネスト・ヘミングウェイは、1954年に『老人と海』でノーベル文学賞を受賞したアメリカの小説家である。

読者の中には、学生時代に同作を読んで退屈に感じた人もいるかもしれないが、無理もない。なぜなら『老人と海』は、年齢や経験を重ねてこそ、より深く味わうことができるようになる作品だからだ。それは言うなれば、子どもから大人になるにつれて、食べ物の好みが変遷していくのに似ている。

ヘミングウェイの特徴は、その簡潔な文体にある。

彼は作品の中で、感情を詳しく描写したり、美辞麗句を尽くしたりしない。短い文章で客観的な事実だけを書く、ドライなスタイルだ。

だが、そのスタイルが読者の想像力を刺激し、感動を最大限に高めてくれる。

そんなヘミングウェイには、ある特徴的な執筆スタイルが確立されていた。

1954年、「パリス・レビュー」という雑誌の記者が、ヘミングウェイにインタビューするために自宅を訪問したときのこと。

そこで記者が目撃したのは、ヘミングウェイが小説を立ちながら書いている様子だった。彼はタイプライターで小説を書いていたが、そのタイプライターはスタンディングデスク(立って作業するようになっている机)の上にあったのだ。

作家アーネスト・ヘミングウェイのタイプライター
写真=iStock.com/Emilie1980
作家アーネスト・ヘミングウェイのタイプライターのクローズアップ

シリコンバレーも“立って働く”

なぜこのような執筆スタイルをとっているのかというと、まさに短く、簡潔な文体を追求するためだという。座って書いていると、どうしても気分的にのんびりとして、一文が長くなりやすい。だから、彼はスタンディングデスクを使ったり、片足で立ったりしながら小説を書くことにしているというのだ。

実は、『オリバー・ツイスト』や『クリスマス・キャロル』で有名なイギリスの小説家チャールズ・ディケンズも、同じ習慣を持っていた。

別の分野としては、「第二次世界大戦」を連合国の勝利に導いたイギリスの首相ウィンストン・チャーチルも、たびたび立って働いていたという。

多数の研究によれば、立って働くと脳が活性化し、集中力が高まるのだという。

また、動脈硬化や心筋梗塞こうそく、がんの発生リスクを下げる効果があることも指摘されている。

そして何より、集中力が維持しやすくなることで、作業時間が短くなり、仕事の生産性が劇的に高まるのだ。

実際、シリコンバレーを代表する企業Facebook(現Meta)をはじめ、多くのIT企業が、社員の健康と集中力維持のためにスタンディングデスクを導入している。

これは、作家やIT企業の社員に限らず、多くの人が試す価値のある習慣だろう。

立つだけならタダなのだから、ぜひあなたも、ヘミングウェイの真似をしてみてほしい。