台湾有事は世界経済の危機に

経済的・政治的リスクもあります。

もし中国が台湾に侵攻すれば、国際社会から厳しい経済制裁を受けるでしょう。ロシアがウクライナ侵攻後に受けた制裁どころではありません。それは、中国経済の規模がロシアとは比較にならないほど大きいからです。

ロシアのGDP(国内総生産)は約2兆ドルで、世界第11位です(2023年)。一方、中国のGDPは約18兆ドルで、アメリカに次ぐ世界第2位の経済大国です。

中国は「世界の工場」と呼ばれ、スマートフォンやパソコン、家電製品、衣類など、私たちの生活に欠かせない製品の多くが中国でつくられています。また、中国はアメリカにとっても日本にとっても最大の貿易相手国です。

つまり、中国に制裁を科すということは、制裁する側の国々にも深刻な打撃を与えることを意味します。中国製品が輸入できなくなれば、世界中で物不足やインフレ(物価上昇)が起きるでしょう。

逆に中国も、外国からの部品や技術、食料やエネルギーを大量に輸入しているため、制裁によって経済が大混乱に陥ります。

さらに重要なのは、台湾が世界の半導体の60%以上を生産していることです。特に最先端の半導体は、台湾のTSMCという企業がほぼ独占しています。

TSMCのビル
写真=iStock.com/BING-JHEN HONG
※写真はイメージです

半導体は、スマートフォンやパソコンだけでなく、自動車、医療機器、家電製品など、現代社会のあらゆる製品に使われている「産業のコメ」です。

台湾で戦争が起これば、世界中の工場で生産がストップし、経済への打撃は壊滅的なものになるでしょう。そして、中国自身もこの半導体に大きく依存していますから、台湾侵攻は自らに跳ね返るブーメランになりかねません。

このように、中国経済は世界と深く結びついており、台湾有事は文字通り「世界経済の危機」となるのです。

台湾侵攻は静かに進む

もし中国が台湾侵攻を決断した場合、どのようなシナリオが考えられるでしょうか。もっとも可能性が高いとされるのは、いきなり全面侵攻するのではなく、段階的にエスカレートさせるシナリオです。

第一段階は、経済封鎖です。

台湾周辺の海域と空域を封鎖し、物資の出入りを止めます。台湾は食料もエネルギーも輸入に頼っているため、封鎖が続くようだと数カ月で降伏せざるを得なくなります。

第二段階は、サイバー攻撃と情報戦です。

台湾の電力網、通信網、金融システムを麻痺させ、社会を混乱に陥れます。同時にフェイクニュースを流し、台湾住民の戦意を削いでいきます。そういう中で、中国寄りの政治家による傀儡かいらい政権を樹立しようとするでしょう。第三段階は、離島の占領です。

台湾本島を攻める前に、金門島や馬祖島といった小さな島を占領します。「抵抗を続ければ、次は本島だ」と脅すのです。そして、最終段階が本島への上陸作戦です。

ただし、ここまで来る前に台湾が屈服することを、中国は期待しています。

第四段階は、首都・台北の占領を目指した短期決戦です。

中国は台湾全土を占領する能力がないことを自覚しています。しかし、中国はアメリカの海兵隊にあたる陸戦隊を6個旅団・3万人擁しています。

この部隊を4万トン級の強襲揚陸艦などで台湾北部に上陸させ、アメリカ軍の本隊が到着するまでの1カ月以内に台湾を降伏させようというシナリオです。

これが成功すれば「武力統一」の達成となります。