延伸計画を阻む壁
それでもインドネシアは、今後も鉄道網を拡張する方針だ。ジャカルタと国内第2の都市スラバヤを結ぶ延伸構想の夢は、まだ潰えていない。
サウスチャイナ・モーニングポストによると、計画を主導するルフット・ビンサル・パンジャイタン国家経済評議会議長は昨年5月、北京を訪れ、延伸が依然検討中であることを再確認した。
中国の王毅外相との会談後、同氏はこう認めた。「問題は実は我々側にある。規制の草案がまだ完成していないからだ」
だが延伸を語る前に、現行路線の課題を片付けねばならない。東南アジアニュースメディアのシーアジアは3点を挙げる。
第1に、財務の再編。累積する損失は最終的に納税者の負担になりかねない。第2に、既存の交通網との統合。45分で着いても、駅から先の足がなければ時短効果は薄れる。第3に、価格設定。高すぎれば客足が遠のき、安すぎれば国庫を圧迫し続ける。学生割引も統合チケットもなければ、Whooshは富裕層専用の乗り物で終わりかねない、と記事は指摘する。
「日本の新幹線」は守られた
アジアの鉄道網を巡る競争は、まだ始まったばかりだ。
1964年に世界初の高速鉄道を走らせた日本は、インドで着実に布石を打ってきた。ブルームバーグによると、ムンバイとアーメダバードを結ぶ508キロの路線が建設中で、日本は総事業費170億ドル(約2兆7000億円)の81%を超低金利で融資する。インドは台湾に続き、新幹線技術を採用する2カ国目となる。
同記事は日印の高速鉄道での協業を、アメリカと連携する「巨大かつ強力な2つの民主主義国家」による長期パートナーシップであり、中国の影響力を抑制する「歓迎すべき事例」であると評価している。
一度高速鉄道の敷設が決まれば、数十年にわたる債務関係が生じ、保守契約でも国家同士が強く結びつく。高速鉄道は一時限りのモノの売買に終わらず、長年の関係性と責任を伴う。
インドネシア高速鉄道の事例では、そうした長期的ビジョンを軽視する形で中国が示した「速い・安い・政府保証も不要」の宣伝文句を前に、日本の堅実な案は退けられた。だが、今となっては中国の口約束は反故にされ、予算は80%超過し、年間数億ドルの赤字は時限爆弾とまで呼ばれている。
10年前、仮に日本案が採用されていれば、どうなっていたか。新幹線の兄弟分に当たる高速鉄道がこうした赤字を背負い込み、ほとんど空席でインドネシアの都市間を走り続ける。「インドネシアの血税を投じて日本企業を支える」との批判の的になっていたおそれすら否定できない。紛れもなく、新幹線ブランドの毀損に当たる。
ジャカルタで日本案が選ばれなかったことは、当時でこそ日本の提案力不足と見なされたかもしれない。しかし、現在になって振り返れば、日本が誇る新幹線ブランドの価値の低下を免れた。結果論ではあるものの、最も問題の少ないシナリオに収まった。


