実際に乗車したアーキペラゴ・ノーツの記者は、ジャカルタ市内の自宅からバンドンの市街地まで、乗り継ぎを含めた実質の移動時間は約2時間に及んだと振り返る。40分との触れ込みとの落差は大きい。
批判の声は国内の専門家からも上がっている。インドネシアのシンクタンク、戦略経済行動研究所の上級アナリスト、ロニー・P・サスミタ氏はアジア・タイムズに寄稿し、本来ジャカルタと国内第2の都市スラバヤを結ぶ780キロの路線を先に建設すべきだったと主張した。沿線には複数の主要都市が並び、ジャワ島のGDPの6割以上をカバーする。
こうして10時間の移動を4時間未満に短縮すれば、物流コストの削減と産業拠点の分散が見込めた。142キロの短距離路線では、高速鉄道の利点は薄い。
1キロの敷設に80億円
問題はそれだけにとどまらない。
政治外交専門誌の米フォーリン・ポリシーによれば、インドネシアの汚職撲滅委員会(KPK)がWhooshの予算不正について調査に乗り出した。
元大臣の指摘では、1キロあたりの建設費は5200万ドル(約83億円)。単純には比較できないが、中国国内の1700万〜1800万ドル(約27〜28.6億円)と比べれば、なぜか3倍近くを要している。
運営会社KCIC(クレタ・チュパット・インドネシア・チャイナ)は火の車だ。日々の運営費こそ賄えているものの、利息と為替差損、そして減価償却費が重くのしかかる。
政府による救済は避けられないが、財務省と国営持株会社ダナンタラ(Danantara)の間で負担額をめぐる押し付け合いが続いている。国営鉄道のCEOはついに議会で、このプロジェクトを「時限爆弾」と呼んだ。
「時間は貴重」開通を歓迎する声も
一方で、Whooshが一定の成果を生んでいるとの声もある。
中国国営の新華社通信は、Whooshの累計利用者が2025年7月25日時点で1060万人を超えたと強調。1日最大62便を運行し、ピーク時には2万6800人が利用するという。
毎週末ジャカルタ・バンドン間を往復するという37歳の2児の母は「Whooshはきちんとした交通手段になった。時間は貴重なもの」と話す。バンドンの駅近くのケーキ店経営者も、観光客が増えて客足が大幅に伸びたと語るなど、一定の経済効果は生まれつつある。
技術移転も進んだ。合弁事業を通じて人材を育成した結果、運転士も整備士も今では全員がインドネシア人だ。KCICのエミール社長は新華社の取材に対し、「単に設備を輸入するだけのプロジェクトではない。現地チームは実地経験を通じて成長している」と語った。
もっとも、こうした成果の一方で、年間数億ドルの損失と40年先の損益分岐点という現実を覆すには至っていない。

