衛星を一切使わないから、高層ビルに囲まれてGPS信号が乱れる都心部、いわゆるアーバンキャニオンでも精度は落ちない。むしろ郊外よりも学習データが多い。ナイアンティック・スペーシャルの広報担当者は、「アーバンキャニオンでこそ、特に高い安定性を発揮します」と強調する。
測位の手法をめぐっては、配達ロボット各社で考え方が分かれる。テックスポットによると、競合のスターシップ・テクノロジーズは、自社ロボットのセンサーで新しい場所を走るたびに3D地図に書き加えていく。
対するナイアンティック・スペーシャルは、多数のユーザーから集めた画像でグローバルに適用できる基礎モデルを築くやり方だ。1つのモデルの精度を高め、これをもとにあらゆるロボットやデバイスに位置情報を提供する。
スターシップは自社ロボットが走った範囲しかカバーできないが、ナイアンティック・スペーシャルは世界中のポケモンGOなどのプレイヤーが歩いた場所すべてをもとに地図モデルを鍛えられる強みがある。
文字認証は本のスキャンを手伝っていた
ユーザーの何気ない日常の行動が、気づけばテクノロジーの進化に貢献している。こうした現象は、ポケモンGO以外でも見られる。
初期の例で有名なものが、2007年にカーネギーメロン大学で生まれたreCAPTCHAだ。人間のユーザーが閲覧していることの証明として、ウェブサイトを閲覧する際に、表示されている文字と同じ文字を入力するよう促される。
英テクノロジー情報サイトのテックレーダーによると、認証画面で入力する2単語のうち片方は、実はreCAPTCHA側がデジタル化したいと考えている書籍の一節だったという。ユーザーは自分が人間だと証明するたび、知らず知らず書籍の文字起こしに手を貸していたわけだ。
2009年にグーグルがreCAPTCHAを買収すると、そこからわずか2年ほどで、グーグルブックスのアーカイブ全体と、1851年まで遡るニューヨーク・タイムズの過去記事1300万本が、reCAPTCHAの入力作業を通じてデジタル化された。
書籍のデジタル化が一段落すると、reCAPTCHAの出題は様変わりした。2012年以降、Googleストリートビューの番地や道路標識の画像を見分ける課題が画面に並ぶようになる。ユーザーが「私はロボットではない」と証明するたび、今度は自動運転車のAI訓練データが蓄積されていった。
その後、テスラはこの仕組みを、けた違いの規模で取り入れた。米工学専門誌のIEEEスペクトラムによると、約7万人いる顧客がいつもどおりハンドルを握るだけで、走行データ総計約7億8000万マイル(約12億5000万km)分が収集されたという。1日に約100万マイル(約160万km)ずつ増えてゆくペースだ。
一方、グーグルの自動運転テスト車は2009年以降の累計で約140万マイル(約225万km)。テスラの顧客は、2日も経たないうちにその距離を超えてしまうデータを提供していた。

