もはや期待できないトリクルダウン効果
円安の恩恵を受けた自動車業界は好業績を背景にボーナスの満額回答が相次いだが、賃上げ率はほぼ前年並み。気になるのは機械・金属労組のJAMの賃下げだ。主に自動車メーカーの部品などを製造する中堅・中小の下請け企業で構成するが、好業績の自動車の恩恵をほとんど受けていない。
労組の幹部は「かつてはトヨタ自動車やパナソニックが賃上げすれば、自動車や電機産業とその関連産業を含むあらゆる労働者に賃上げが波及したものだが、もはやそうしたトリクルダウン効果は期待できなくなっている。今後大企業が賃上げを実現しても中堅・中小企業にまで行き渡らなければ、大手との格差はますます拡大することになる」と指摘する。
表の23の産業別組合のうち、前年度と比べて上昇したのは9。いずれも微増にとどまった。鉄鋼業と造船重機で構成する基幹労連もその1つだ。大手鉄鋼各社は韓国や中国のライバル企業との競合で製品価格が下落し、苦戦を強いられた。しかし、その一方で、航空宇宙産業が好調な三菱重工業の業績が反映されたようだ。
今年の賃上げも例年と同様に低率で推移した。サラリーマンの賃金は97年の42万円から、2011年は4.5%も減少している(厚労省「毎月勤労統計調査」)。連合のシンクタンク「連合総研」が今年4月上旬に20~60代前半のサラリーマンに実施したアンケート調査によると、「1年後に自分の賃金が増えると思う」と回答した人は約19%。最も多かったのは「変わらない」の約54%で、全体に諦めムードが漂っている。
今後、賃金が上がる可能性はないのか。精密機器会社の人事部長は「仮に物価上昇率が2%になれば、賃上げせざるをえなくなるが、2%賃上げしても現状の生活レベルを維持するのがやっと。生活向上を図るには4%引き上げる必要があるが、とても引き上げられる額ではない」と指摘する。
また、機械メーカーの人事部長は「業績に貢献しているのは海外の売り上げであり、国内の寄与率は低い。海外従業員の人件費も高騰しているのに、日本人社員だけ高い賃金を払う時代ではない。よほどのことがない限り、上がることはないだろう」と予測する。
安倍政権は賃上げ要請を繰り返しているが、実現を期待するのは極めて難しい情勢だ。