なぜ突然、私の個室オフィスに?

ゲーレン初代BND長官は回顧録で以下のようなことを述べている。

東独国家保安省(シュタージ)のミールケ長官が「インテリジェンスにおいてもっとも価値のある情報のひとつは対象者の“写真”である」と語ったことを引きながら、写真が将来のリクルート候補の特定、監視、心理分析、偽造身分証の作成など、あらゆる工作の基礎資料になると指摘しているのだ。

私はすでに現役ではない。しかし、彼女の行動が“将来のリクルート候補としての顔写真収集”である可能性は否定できなかった。

英語講座修了から約10カ月後の平成19(2007)年1月のことだ。「ケイ・ティ」が突然、私のアジアセンターの個室オフィスを訪ねてきた。口実は「アルバイト面接」だった。

しかし、私が個室を持っていることをどう知ったのだろうか。これは偶然ではなく、事前に情報を得ていなければ不可能だ。

もし彼女のアプローチに応えていたら…

私は本能的にドアを大きく開けたまま応対した。密室を避けるためだ。

彼女は1時間以上、一方的に話しつづけた。公開講座での無口さとは別人のように、親しげで、びさえ感じられた。

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「私、最近悲しいの」
「どうして」
「アメリカでは誰でも車を持てるのに、私は一生持てそうにないわ」

私は軽く受け流したが、彼女の“本題”は別にあったはずだ。

それを言いたかったに違いない。私は深入りを避けるため、話題を変え、予定を理由に退出してもらった。

その後、電話、手紙とアプローチは続いたが、私は一切応じなかった。

ハニートラップだったのか、単なる個人的感情だったのか。真相はわからない。しかし、もし一線を越えていれば、引き返せなかった可能性はある。私の判断は正しかったといまでも思っている。

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