政府閣僚も監視対象だった

情報組織とは本来そういうものだ。

発足当初はノウハウがなく、試行錯誤を重ねる。しかし、経験を積むにつれ、組織は洗練され、効率的な情報収集・分析が可能になる。

博士は、旧ポーランド諜報機関の活動成果の事例をいくつか提示した。

①防諜活動の実例――外国駐在武官の“現場写真”

最初に示されたのは、防諜活動の成果だった。

ポーランドに駐在する外国武官が、重要施設を撮影している瞬間を捉えた写真である。私服姿の男が車のドアを半開きにし、体を乗り出して撮影している。米国の駐在武官とみられる。

私は平成2(1990)年から平成5(1993)年に、韓国で防衛駐在官を務めた経験がある。

この写真を見た瞬間、「私の行動も同じように監視されていたのだろう」と背筋が冷たくなった。

②外務大臣すら監視対象――共産主義政党政権の“恐怖政治”

次に示されたのは、ポーランド人民共和国の外務大臣が西欧を訪問した際の監視写真だった。

政府閣僚でさえ、「西側と内通していないか」とつねに疑われ、監視されていたという。共産主義政党政権下では、国家の要人であっても例外ではない。むしろ、要人だからこそ厳しく監視される。

これが全体主義国家の現実である。

「トイレに盗聴器」は昔話じゃない

③駐在武官の機密電報――“何を知りたかったか”が丸裸に

三つ目は、ポーランドの駐在武官が外国で収集した軍事情報を記録した機密電報のコピーだった。

私はポーランド語を読めないが、どの国を、どの部隊を、どの装備を、どのような方法で調べていたかがひと目でわかる。

博士によれば、当時の統一労働者党政府は電話盗聴はもちろん、トイレにまで盗聴器を仕掛けていたという。気楽な雑談すら監視対象だった。

男性用のトイレ
写真=iStock.com/sanse293
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そして博士は言った。

「こうしたことは、現在も各国で行われていると考えるべきだ」

私は深くうなずいた。

インテリジェンスの世界は、時代が変わっても本質は変わらない。