「女にも学問が必要だ」が口癖の父

弾右衛門は政治向きの話や世の動きについて、妻や子たちにもよく語って聞かせていた。「女にも学問が必要だ」が口癖で、チカにも算術や漢字の読み書きを習わせている。政治情勢や藩の現状についても知っておくべきだと思って、話を聞かせていたようだ。“異国かぶれ”と陰口を叩かれていた主君の影響もあったのだろうか、弾右衛門は田舎武士には珍しく進歩的な考えを持っている。また、増裕の死後は厳しい立場に置かれて人づきあいが途絶えたこともあり、妻や娘たちとの語らいが気晴らしにもなっていたのだろう。

増裕が亡くなると、改革の抵抗勢力がとたんに息を吹き返して藩政を牛耳った。2名に減じられていた家老は6名に増員され、寄合いは守旧派の重臣たちで固められる。

不器用ゆえ旧勢力に追い詰められる

敵対勢力に囲まれて孤立無援となった弾右衛門は力を失い、改革路線の後退を傍観するしかない。その状況に耐えきれず辞表を提出するのだが、敵対する者たちはこれ幸いと「弾右衛門は気が触れた」と噂を流す。精神障害者のように扱って無視するようになっていた。

青山誠『大関 和 看護に人生を捧げた日本のナイチンゲール』(角川文庫)
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弾右衛門がもう少し融通の利く性格であれば、政敵とも上手く交渉して妥協を引きだすことができたかもしれない。また、関係を修復して家老に留任し、居心地のよい立場を維持するのも可能だったはず。藩の経済を支える硫黄採掘事業を成功に導いた功労者、敵対する者も、経済に関しては藩内随一とその手腕を高く評価していた。手放すには惜しい才能なのだが、しかし、取り扱いが難しい。原理原則を重視する頑固者は、増裕の死後も改革路線の継承者として事あるごとに苦言を呈していた。

有能な男ではあるのだが、協調性がなくて空気が読めない。いくら有能でも「こんな面倒臭いヤツはいらない」と疎まれるようになる。

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