これらの質問はともに「相手の話したいことを聞け」という、パフォーマンス心理学の「ストローク成功の法則」にのっとっています。この場合の「ストローク」とは、「相手へのメッセージの第1球を投げること」です。
さて、このストロークで、王子夫妻と市民はどんな欲求が満たされたのでしょうか? 次の3点が挙げられます。
(1)王子の美しい妻に対する誇りという自尊欲求
(2)市民の王室に対する親和欲求(相手と親しくなりたいという欲求)
(3)王子のイギリス王室に対する信頼回復への欲求
ご存じのように、かつて世間を賑わせたチャールズ皇太子とダイアナ妃の離婚からたった1年後の、ダイアナの悲劇の死。それに対する十分な哀悼の意を王室が示さなかったこと。さらに、ダイアナ妃との結婚前から続いていたチャールズ皇太子とカミラ夫人の交際が発覚、そして再婚。いろんなことが相まって、イギリス王室に対する国民の親近感は、ずいぶん落ちていました。
ダイアナ妃の忘れ形見であるウィリアム王子は、信頼回復のために、できる限り国民と親しくしてきました。今回も、王子がすでに赤ん坊のオムツを替えたエピソードを披露し、ベビーシートにわが子を乗せ、自ら車のハンドルを握り、そのまま妻の実家に向かうという、極めて庶民的な行動をとりました。そこへ記者団から見事なストロークが入ったのです。
「待ってました!」とばかりに王子は質問に答え、特にユーモアがある人を上等とする文化を持つイギリス人たちは、一様に笑い転げながら連帯感を強め、その場は大いに盛り上がりました。