西太平洋の“抑止”を担う戦力

そもそも、なぜ米海兵隊は沖縄に常駐しているのか。

理由は明確だ。東アジアが世界でも有数の軍事的緊張地域だからである。

台湾海峡、朝鮮半島、そして南西諸島。これら三つの潜在的紛争地域のほぼ中央に位置するのが沖縄だ。米軍はここに海兵隊を前方展開することで、有事の際に迅速に部隊を投入できる体制を築いてきた。

その中核を担うのが第31海兵遠征部隊だ。

海兵遠征部隊(MEU)は、約2200~2500人の海兵隊部隊に航空部隊と後方支援部隊を統合した小規模な統合戦力として編成される。平時から強襲揚陸艦などの艦艇と一体で行動し、海上で即応態勢を維持する。

そしてひとたび危機が発生すれば、数時間から数日のうちに現地へ投入され、空港や港湾を確保して後続部隊の展開を可能にする。つまりMEUは米軍の初動対応戦力の中核を担う存在なのだ。

沖縄に常駐する第31海兵遠征部隊は、西太平洋で常時展開している唯一の海兵遠征部隊であり、日本の南西諸島、台湾海峡、朝鮮半島有事の際には最初に動く戦力とされてきた。

その部隊が西太平洋を離れたことの意味は決して小さくない。今もし南西諸島や台湾海峡で緊急事態が発生した場合、米軍が初動で投入できる上陸戦力は大きく制限される。

在日米軍には空軍や海軍も存在するが、島嶼や沿岸部で初動の地上戦力を投入できる部隊は限られている。第31海兵遠征部隊は、その空白を埋める役割を担ってきた。

米軍普天間飛行場に駐機したオスプレイとそれを見ているカップル
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戦力の空白が生まれてしまった

抑止力とは、単に強大な軍事力の保有によって成立するものではなく、戦争に勝利する可能性を相手に認識させないことで初めて機能する。裏返せば、軍事バランスの崩れは誤算や挑発の誘発につながりかねない。

中国は近年、東シナ海と南シナ海で軍事活動を急速に拡大している。台湾周辺では大規模な軍事演習が常態化し、中国海警局や海上民兵によるグレーゾーン活動も活発化している。

また、北朝鮮も弾道ミサイル発射を繰り返し、核・ミサイル戦力の高度化を進めている。

こうした状況の中で、西太平洋の即応海兵戦力が一時的に姿を消すことは、地域の安全保障に心理的な影響を与えかねない。

軍事史を振り返れば、多くの衝突は力の空白が生じたときに起きている。今回の海兵隊の中東派遣は、東アジアに小さいながらも確かな戦力の空白を生み出している。