アートを「街全体を変える力」として活用

そこで私が進めたのが、工芸を現代化しつつ、改めて金沢の文化として盛んにしていくということでした。伝統工芸に敬意を払いつつ、新しくしていけるところは新しくしていくというものでした。金沢21世紀美術館の活動のなかで行った部分もありましたが、それよりも美術館の外で、金沢市工芸協会や金沢青年会議所などの各団体と協働して工芸の振興を推進していきました。

実施した事業には「金沢・世界工芸トリエンナーレ」、「かなざわ燈涼会」、「金沢21世紀工芸祭」、「KOGEI Art Fair Kanazawa」、「GO FOR KOGEI」などがあり、「GO FOR KOGEI」は、私が美術館の館長を退いてから立ち上げたものでした。「KOGEI Art Fair Kanazawa」「GO FOR KOGEI」は、今も関わり、継続している事業です。もはや私にとって金沢の工芸への関わりはライフワークのようになっています。

元々あった文化の力を見直して今の時代に合わせて再生して次の時代へつなげていくことは、今生きる者の務めでもあるでしょう。ここにしかないものを大事にしてこそ文化のオリジナリティは保てるのです。

金沢の工芸の取り組みは、直島と同じく、「ローカル化」を重視した点にあります。資本主義の主流である「マーケット化」や「グローバル化」とは一線を画し、地域の歴史や文化を尊重しながら、そこに現代アートという新しい要素を融合させていく。このアプローチは、単にアートを「消費する対象」として扱うのではなく、街全体を変える力として活用するものでした。

金沢駅の構内
写真=iStock.com/TkKurikawa
※写真はイメージです

年間200万人以上の来館者を誇る

面白いことをやっていれば、結果的に金沢でも自然に人は集まってきました。観光客を誘致するためにマーケティングのコンサルタントを外部からわざわざ招聘する必要はありません。まずは「住民ファースト」を第一に考え、彼らが暮らしていて楽しい街や魅力的な場所をつくること。そして、歴史ある街に現代的な視点を取り込むことで、東京とも大阪とも違う、文化都市・金沢ならではの独自性を生み出すこと。金沢21世紀美術館はその変革のシンボルであり、新たな「ローカル化」の中心地でもありました。

幸いなことに、私が館長を務める間に、金沢21世紀美術館は金沢市民にとって誇りを持ち、愛着を感じられる場所になってくれました。その結果、同館は地方美術館としては異例となる、年間200万人以上の来館者数を誇る日本屈指の人気ミュージアムへと成長していったのです(※)。

※編集部註:2024年度の来館者数は約190万人(「2024年度 金沢21世紀美術館年報」より)

金沢21世紀美術館は、歴史ある街に現代アートという新しい風を吹き込むことで、過去と未来をつなぐ橋渡しをしました。そして現代アートによって培った現代的な視点から伝統工芸を見直すことでさらに金沢の工芸を前進させる契機になったのです。その試みは継続していますが、ローカルな視点を大切にしながらも、世界性を持つというバランス感覚のなかで実現されつつあるのです。その根底には、直島でのプロジェクト同様、「反資本主義」的な発想が貫かれています。