非公開入試とスカウトが生む不透明な選抜

こうした問題をメディアは指摘し続けていた。たとえば、スポーツ推薦入試入学者の退部を禁じ、退部の際は退学を強要する誓約書の存在(『朝日新聞』1989年3月26日)。

小野雄大『体育会系』(中公新書)
小野雄大『体育会系』(中公新書)

推薦入試の筆記試験の英語科目が零点だったアスリートを合格させていた大学の実態(『読売新聞』1992年1月11日)。また、非公開でスポーツ推薦入試を実施したため、入試の透明性に疑義が向けられた大学もあった(『読売新聞』1992年5月28日)。先述したように、古くは新制大学の発足直後からアスリートへの入試優遇措置が、非公開の制度として存在した。

それが批判を浴びるようになり、公式な形でのスポーツ推薦入試がはじまった。それにもかかわらず、脈々とこうした実態が続いていた。これらの事案は、違法性が指摘されるわけではない。だが非倫理的な行為が蓄積されることで、スポーツ推薦入試はつねに批判的な視線が向けられる状況をつくり出していた。

また、スポーツ推薦入試がほかの入試形態と大きく異なる点も問題を複雑にしていた。たとえば、多くの大学では高校生の勧誘(スカウティング)を行っていたことである。実際、現在でも出願以前に高校側と大学運動部間のやりとりを必須とする大学が存在する。入試要項にその旨を明記している大学もある。

大阪経済大学不合格事件にみる推薦の危うさ

こうした事例で注目したいのが、スポーツ推薦入試の勧誘をめぐって裁判に発展した「大阪経済大学スポーツ推薦入試不合格事件」である。この事件は、まず2000年に「99%合格する」との説明を受けて大阪経済大学のスポーツ推薦入試を受験した男性が、結果として不合格になったことにはじまる。

男性は説明とは違って不合格だったことについて、大阪経済大学を相手取って損害賠償を求める訴訟を起こした。2002年、大阪地方裁判所の判決は原告の請求を棄却するものであった。原告は不服として控訴。2004年10月の大阪高等裁判所で結審するが、ここで同大学の説明義務違反を認めた。

法廷とガベル
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裁判記録の事実および理由では、「控訴人と被控訴人の間には高度の社会的接触関係が生じ、控訴人には本件推薦入試合格についての強い合理的期待が生じた」とし、スポーツ推薦入試の特殊性についても言及していた。こうしたトラブルや倫理的問題を考えるうえで重要となるのは、いずれの事案も、その背景に、過剰な運動部強化の風潮があるということである。

大学設置基準の大綱化以降の1990年代は大学運動部に優秀な選手を集めることで、大学の知名度向上を図ろうとする大学が乱立した。スポーツ推薦入試にかかわる倫理が軽視され、揺らいだ時期だったと言えよう。

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