自家製麺のレシピ通りに製麺所で生産する

一般的に自家製麺へ移行する契機として多く語られるのが、自分の理想を製麺所の既製ラインでは満たせなくなった瞬間である。

特に濃厚つけ麺や多加水麺の隆盛期には、製麺所間の競争が激化し、営業担当が頻繁に店を訪れてサンプルを持ち込み、麺の改良が続いた時代があった。

つけ麺
写真=iStock.com/NinjaTaTaa
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だが、それでも自社のスープの進化と完全な同期を果たせないもどかしさが、店主を自家製麺へと向かわせていった。

しかし、自家製麺には理想と同時に現実が伴う。人員確保、衛生管理、粉の保管、気候変動への対応――自家製麺を始めると多くの困難が待ち受ける。店で人が風邪を引けば製麺が止まるが、製麺所は止まらない。この差は経営リスクとして無視できない。

また、設備投資に加え、熟練までの時間も必要であり、「やればできる」が成立するのは、あくまで製麺意識が高く、研究に時間を割ける環境の店だけである。

その中間点として今注目されるのが、「自家製麺のレシピ通りに製麺所で生産してもらう」という手法である。いわばOEM型製麺。自店で研究し、配合と加水、圧延工程までを細かく数値化し、それを製麺所に委託する。

これにより、現場の労力を抑えつつ、麺のアップデート権を保持できる。粉の収穫年による性質変化に応じて、毎年レシピを微調整することもできる。製麺所に対して「今年はこの粉の伸びが弱いからブレンドを変えてくれ」と注文できる関係は、もはや購入者ではなく麺の共作者としての立ち位置である。

製麺所では作れない麺

ここで、業界特有の習慣として挙げておきたいのが「製麺所の箱をおく文化」である。店頭に積み上げられた製麺所の木箱は、一種の“のれん”として機能してきた。これは「うちはこの製麺所の麺を使っている」という宣言であり、製麺所への信頼の証でもある。

浅草開化楼、三河屋製麺、菅野製麺所、村上朝日製麺所など、かつては箱の文字ひとつで麺の傾向を予期できたほどで、製麺所がブランド化しているのはすごいことである。

客側も「この店は○○製麺の麺箱がおいてあるから信頼できる」とそのメッセージを受け取ってきた。横浜家系ラーメン店の「酒井製麺」の麺箱などはその最たるものだろう。

では、製麺所では作れない麺とは何か。それは“均一でない麺”である。たとえば多加水で不揃い、一本ごとに表情が異なる麺。手揉みの強弱による微妙なねじれ。一本ずつ気泡や膨らみ方が違う麺を作ろうとした場合などである。

製麺所での規格化された品質も素晴らしいが、不揃い感を魅力にしたい場合においては自家製麺の余地が残る。逆に、熟成管理、難しい圧力のかけ方、複数の粉のブレンドなど、緻密な職人技を要する工程では、今や製麺所の方が優れているケースも少なくない。

結局のところ、「製麺所か、自家製麺か」の問いは、白黒ではない。重要なのは手段ではなく、麺がスープと同じ歩幅で歩いているかどうかである。

麺がおいてきぼりになるのか、しっかりスープとともに進化して一体化するのか。製麺所・自家製麺いずれの道であれ、麺が店の声を代弁している限りはその選択は正解であると言えるだろう。