スロック氏は、中央銀行の購入に市場間の価格差を利用した裁定取引と家計の旺盛な安全資産需要が重なり、中国が金価格の持続的な上昇を牽引していると指摘した。さらにこのペースが続けば、世界の中央銀行の外貨準備で金がまもなくドル建て資産を上回るとも述べている。

2027年に迫る台湾侵攻説

では、そもそも中国人民銀行はなぜこれほど金を買い続けるのか。背景にあるのは、2027年を睨んだ地政学的な視点だ。

イスラエルのシンクタンクのINSS(国家安全保障研究所)の分析によれば、この年、複数の戦略的な「時計」が初めて同時に針を合わせるという。人民解放軍の創設100周年、習近平国家主席の第3期任期の終盤、そして2028年1月に終了する台湾の選挙サイクルが重なる。

したがって中国当局が、2027年を台湾侵攻の目標時期に据えているとの見方がある。もっとも当局が公式な目標年を宣言した事実はない。だが、CIAのウィリアム・バーンズ元長官は2023年、習氏が人民解放軍に対し2027年までに台湾侵攻の準備を整えるよう指示したとの情報を把握していると発言した。

有事が現実になれば、欧米は大規模な経済制裁に踏み切る公算が大きい。中国はその事態を見据え、金の準備高を過去最高水準まで積み増してきた。

中国が金を選ぶのは、その「制裁耐性」ゆえだ。米週刊誌のニューズウィークは、金は国内に実物として保管できるため外国政府が凍結しにくく、ドル決済から締め出されても資産価値を守れると論じる。

ただし同誌は、金の購入が戦争計画に直結するわけではなく、関税や技術禁輸など「有事に至らないリスク」への備えでもありうると留保を付けている。

中国人民銀行本部
中国人民銀行本部(写真=Max12Max/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

ウォール街は金の保有に走った

今、金の値動きに対する読みは割れている。

ウォール街では、金を見る目が変わりつつあり、従来よりも重視する投資家が出てきている。長年懐疑的だったJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOでさえ、フォーチュンの対談で、「ポートフォリオに金を組み入れることがある程度合理的な、数少ない局面だ」と認めた。

ヘッジファンド大手シタデルのケン・グリフィンCEOは、金が「かつてのドルのような安全資産」になったと認める。ヘッジファンド大手ブリッジウォーター創業者のレイ・ダリオ氏は、ポートフォリオの15%を金に充てるべきだと説く。

反対に中国では、金の強気相場に逆張りした投資家がいた。ブルームバーグによると、運用資産50億元超(約1000億円超)のマクロヘッジファンド、上海半夏投資管理中心の創業者である李蓓氏は昨年12月、保有する金をすべて売却した。

金価格は長期の均衡水準から見て割高で、持ち続ける機会コストが高すぎるとの判断だった。中国の大型優良株が強気相場に入る可能性を見据え、資金を株式に振り向けた。2月の下落相場では胸をなで下ろしたことだろう。一方で3月の高騰を受け、心中は穏やかでないかもしれない。